有機反応機構解析及び合成法の開発

特異な電子共役系の電子効果に基づく反応開発

ジカルバ-closo-ドデカボラン(カルボラン)は炭素原子2個を含む二十面体ホウ素クラスター構造が26個の骨格電子の非局在化により安定化しており、その電子非局在化は、3次元的なベンゼンと例えられている。しかし、有機反応化学の観点からのカルボラン研究の例は少なく、その電子的・立体的性質の解明、合成化学的展開が、材料科学や医薬化学の分野での応用研究の進展にも必要な状況にある。本研究ではカルボランの電子的効果の側面から、カルボランの関与する新規反応の開発、反応機構研究を行っている。カルボランは2つの炭素原子の置換位置により、o-, m-, p-の3種の異性体が存在するが、カルボラン環の隣接カルボカチオンへの効果を反応速度論的に解析することから研究を開始した。o-カルボランはC-C結合をもち、m-, p-体とは異なる電子的効果が期待される。m- およびp-carboranylbenzyl tosylateの加溶媒分解が通常のSN1反応で進行するのに対して、o-carboranylbenzyl tosylateの加溶媒分解が立体保持で進行し、その反応機構がカルボラン環上のホウ素原子の関与する新しいタイプの隣接基効果によるものであることを見い出している。



ホウ素クラスターによる新規隣接基効果J. Am. Chem. Soc. 2000)

多目的キラル合成素子の開発と医薬化学への応用

現代の化学的水準は,ほぼあらゆる対象化合物の合成を達成し得るものである.しかしながら,21世紀の人類の発展に不可欠な医薬品や電子材料といった,キラリティの制御が必要とされる化合物群においては,その実用的かつ普遍的な合成法は未だ発展途上にある.当研究室では,合成化学上のキラリティ制御において,不斉源を D-糖や L-アミノ酸といった天然資源に依存しない方法の確立が重要であると考え,人工的に設計され,その両対掌体の供給が可能なキラル合成素子に着目している.現在,このような機能を有する2種類のキラル合成素子 1および 4 を中心に,その効率的な供給法の確立,およびそれを利用した広範囲な生物活性物質の合成を検討している.

シクロペンテン 1は,トランスジオキシ単位を立体選択的に構築することが困難であるために,これまで殆んどその活用は検討されていない.当研究室では最近,高い光学純度で1 の両対掌体を得る方法を見出した.さらに,1の C2 対称性およびジオキシアリル構造に注目して,マンノシダーゼ阻害作用を有する (+)-マンノスタチン A 2 やプロスタグランジン類の合成中間体である2環性エノン 3 の合成に成功している.一方,当研究室では三環性ラクトン 4に対する求核付加反応が極めて高いジアステレオ選択性で進行すること,またその選択性が反応条件によって完全に逆転できることを見出した.この機能性を利用して,4 が任意の対掌性を持つ g-置換ブテノリド 5 の等価体であることを実証し,さらに樫の精油成分である trans-ケルカスラクトン 6 のエナンチオ二元的合成に成功した.現在,これらのキラル合成素子の更なる活用について検討を行っている.



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