薬学教育センター

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第1回 東北薬科大学生涯教育講演会

日時: 平成14年9月28日(土) 15:00~17:30
会場: 東北薬科大学講義棟 701講義室

講演1

「アルツハイマー病治療薬・ドネペジルの研究開発戦略」

エーザイ株式会社 創薬第一研究所 所長 杉本 八郎 先生

講演2

「老年内科物忘れ外来における経験と展望」

東北大学医学部附属病院老年・呼吸器内科 助教授 荒井 啓行 先生

 
参加費:無料
 
薬剤師研修センター認定: 1単位


講演会要旨

講演1 要旨

「アルツハイマー病治療薬・ドネペジルの研究開発戦略」

   エーザイ株式会社 創薬第一研究所 杉本 八郎

 

 1970 年代に D.M.Bowen らがアルツハイマー病患者の死後脳でのコリン作動性神経の異常を報告した。彼らはアルツハイマー病患者脳の大脳皮質において、記憶に関係している神経伝達物質アセチルコリンの合成酵素、コリンアセチルトランスフェラーゼ (ChAT) の活性が異常に低下していることを見出した。このような背景からアルツハイマー病患者の脳内アセチルコリン濃度を高めれば記憶を改善することができるというコリン仮説が唱えられた。
 

 私たちの研究は、このコリン仮説の一つであるアセチルコリンエステラーゼ(AChE・アセチルコリン分解酵素) 阻害作用に基づくものである。ランダムスクリーニングの中から偶然見出されたピペラジン誘導体に、弱いながらも AChE 阻害作用をもつことを発見した。この偶然の発見がドネペジル創出の端緒となった。
 

 創薬の成功の鍵はいかに質の良いリード化合物を手にするかにかかっているとよく言われるが、 このリードは従来の AChE 阻害剤とは全く異なる新規な構造を有していた。 私たちは 3 年有余に渡り合成展開した結果極めて完成度の高い AChE 阻害剤ドネペジルの創製に成功した。
 

 米国では1991 年より臨床第一相試験が始まった。薬効の評価には記憶障害改善の指標として ADAS-cog と患者の日常生活動作の指標として CIBIC-plus が用いられた。 この 2 試験いずれにおいても統計学的にきわめて有意な改善効果が得られた。 1996 年 11 月に米国 FDA によりアルツハイマー病治療薬として承認を得ることができた。 申請から承認までわずか 8 ケ月というきわめて短い期間で承認を得たことは異例なことであった。日本では1989 年に臨床第一相試験が開始され、1999 年 10 月に承認され 11 月から発売されている。

講演2 要旨

「老年内科物忘れ外来における経験と展望」

  東北大学医学部附属病院老年・呼吸器内科 荒井 啓行

 

 高齢者は、自らの知的機能或いは記憶機能の変化について漠然とした不安を抱いている。また昨今のマスコミ報道などからアルツハイマー病がいつとはなしに「物忘れ」で発症することを知っている。最近のちょっとしたエピソード、例えば「財布をどこかへ置き忘れることが多い」、「老人会で昨日会ったのに今日になると名前が思い出せなかった」、「テレビのドラマを見ていて登場人物が何を言っているのか理解できないことがある」などかつては経験したことのないことを経験すると、これが痴呆の始まりの何らかのアラームである可能性はないかどうか“現時点”での医学的判断を求めて医療機関を受診する高齢者が増えてきている。
 

 これは、平成 11 年から本邦でも臨床の現場にアルツハイマー病治療薬としてのコリンエステラーゼ阻害薬が登場してきたことと無縁ではない。このアルツハイマー病治療薬の登場は、アルツハイマー病研究者が長年待ち望んできたことである一方、患者サイドでは「今は症状が軽くても将来進行する恐れがあるならば、今の内から予防のための薬物治療を始めたりライフスタイルの是正を試みたりして少しでも進行を遅らせたい」という新たな認識を生み出している。コリンエステラーゼ阻害薬の登場が高齢者の受診動機に大きな影響を与えていると思われるのである。
 

 このような場合東北大学老年科では、脳 MRI による血管病変の評価および Wechsler Memory Scale など面接による記銘力検査と伴に脳脊髄液タウ測定と神経機能画像所見 ( SPECT または PET ) という客観的な検査を行い、その結果を患者またはその家族に提示し説明を行っている。100 % 言いきることは困難としても、感度の高いこれらの検査成績に異常がないことを聞いてとりあえず安心する場合も多い。このような現状を踏まえ、東北大学老年科物忘れ外来における経験を紹介する。

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