ホウ素クラスター化学の観点から

ホウ素クラスター化学と有機化学・医薬化学との融合

ホウ素クラスターの化学は1970年代にW. LipscombやK. Wadeによりその構造が決定、理論的研究が開始されて以来、無機構造化学を中心に発展し、有機反応論あるいは生体内物質との相互作用を基盤とした研究指向は注目されなかった。前述の受容体構造に適合する新規素材(ホウ素クラスター)に基づく核内受容体制御薬の創製の方法論は世界的にも類例を見ない新しい着想である。また、この方法論はホウ素クラスターの唯一の医薬への応用例であった癌中性子捕捉療法に新たな展開をもたらす可能性がある。ホウ素の天然存在比の20%を占める10Bは低エネルギー中性子線の照射によりalfa線を出し崩壊するが、その飛程が短く、1個の細胞内に留まる。したがって、癌細胞に選択的に導入できれば、正常細胞にダメージを与えずに癌細胞のみを殺すことができる。メラノーマやグリオーマでの臨床応用もなされているが、化合物のデザインはアミノ酸や核酸にカルボランを結合させ、細胞内に大量に導入しようという方向での研究である。既に創製したカルボラン含有核内受容体リガンドは細胞核へのターゲティングの面で、従来の癌中性子捕捉療法剤より低濃度での効果発揮が期待できる。一方、ホウ素クラスターの電子効果及び立体特性の解明と機能性分子構築への応用は、興味ある非局在電子系を有するにもかかわらず、有機化学的研究が進展していないホウ素クラスターの物理的・化学的性質を解明するための有機物理化学、合成化学研究及び、それらを利用した超分子化学への応用を研究目的としている。


ホウ素クラスターの医薬化学への新展開:疎水性ファーマコフォアとしてカルボランを利用した医薬の創製 


ホウ素クラスターの特異な電子効果の解明:反応機構論に於ける新規隣接基効果の解析 


ホウ素クラスターの立体形状を利用した立体分子構築:分子認識解析と機能性分子設計への応用               


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