近藤 丘 教授(外科学第二<呼吸器外科>)

東北医科薬科大学病院の病院長に就任するまでは、肺移植を専門とする呼吸器外科医でした。1997年に臓器移植法が成立し、2000年より当時在籍していた東北大学病院で肺移植手術が始められるようになりました。それまではガンなどの病巣を摘出する手術が日常でしたが、一転して新しい臓器を与えるという手術をすることになったわけです。移植をした患者さんが見違えるように元気になって退院していく、これほどの喜びを得られたことは私の医師人生の中で大きな転機となりました。
東北大学在職中に経験した80件ほどの肺移植のうち60件ほどの手術を自ら行いましたが、肺の移植では手術もさることながら移植後の管理がそれ以上に重要です。心臓の場合は人工心臓をつけることによって移植まで体を良い状態にして延命をすることができますが、肺の場合は呼吸ができないことで体力が奪われ、筋力がなくなってしまうので、移植を待つ間に失った体力や筋力を取り戻さないと新しい肺で呼吸することも困難になります。だから、術後は医師だけでなく、看護師、薬剤師、理学療法士、栄養管理士とともにチームで患者さんを支ることがとても大事です。元気になってくれたときには本当にうれしかったです。日本では臓器移植はまだ普及した医療とは言えませんが、もっと手術が増えて苦しむ人が少なくなってくれればと思っています。

2016年に当院の病院長に就任してからは新しい医学部の歴史をともに作り上げることに喜びを感じています。医学部ができたことにより、その附属病院として新しい病院づくりも考えていかなくてはなりません。東北医科薬科大学の使命は東北の医療を支える総合的な医療能力を備えた医師を育成することですので、そのためのカリキュラムを医学部と一緒に作っていきます。2年後には福室キャンパスができ、新病棟の建設も始まります。医師を育てる環境を整えること、そして、従来以上によりよい医療を提供することを目的としています。

●東北を支える医療人を育成するという使命

総合的な医療の力を備えた医師と言いますとまず思い浮かぶのは「総合診療医」という名前かなと思います。では「総合診療医」とは一体何でしょうか?すぐにはピンとこないかもしれませんが、そもそも病院によって扱いがまちまちなこともあり、総合診療医という言葉が定着しないのかもしれません。しかし、これからの地域医療には欠かせない存在であると考えています。大学病院ではある程度症状などがわかっている患者さんを診るわけですが、地域医療においては初見の患者さんを迅速に診断し、そして専門医への受診を案内するかどうかのジャッジをしなくてはならないのです。当院では救急センター内に総合診療科の診療ブースを設置していわば救急内科的な役割を担って救急科の医師とともに仕事をしてもらっています。救急車で運ばれてきた患者さんが内科的疾患と判断されるものであれば総合診療科が最初に診察するような仕組みにもしています。幅広い知識を持ち、救急やほかの専門診療科と連携しながら迅速な判断ができる人材が求められます。もちろんこのような総合診療医ばかりではなく、多くの専門診療科医師の育成も必要です。ただ、東北医科薬科大学の使命を考えて、単なる専門的な教育だけではなく、地域医療、在宅医療など広い視野を持った総合的な臨床能力を備えた医師の育成が大事だということになります。

●人と人のつながりを大切に、人間力のある医師を目指してほしい

患者さんや患者さんの家族に信頼され、チームと円滑に最高の医療を行っていくためにはコミュニケーション能力が必要です。学生時代から人間関係を豊かに、信頼される人間になることが大切です。まずは人の話をしっかりと聞く技術、そこから新しい発見があるはずです。学校で学ぶ知識はそのままでは実践には役立ちません。たくさんの友人の言葉や周りの人の助言にも耳を傾けましょう。この先、たくさんの困難があるかもしれませんが、恐れずに前に進み、目の前にあることを全力でやりきることできっと道は拓けるはずです。

●これからの医療、そして教育環境を支えるために

現在、地域医療そして在宅医療を支える医療チームを育成するために、当院が登米の病院そして東北文化学園大学と組み、宮城県の支援も受けてNP(ナースプラクティショナー)の育成に取り掛かろうとしています。NPとは医師の指示のもと、様々な診療行為が行える看護師のことです。NPは訪問医療、在宅医療などを中心とした地域医療にとって大きな存在になると思います。育成したNPを地域医療に導入した先に、さらに薬剤師、理学療法士、管理栄養士などを加えた多職種で構成される医療チームによる在宅医療の推進に取り組んでいきたいと思っています。医師とはタブレットなどのデバイスで連絡を取りながら指示を受ける事が可能となる仕組みとして、より向上した在宅医療を目指したいと思います。この仕組を確立させ、学生さんの臨床実習にも取り入れることで、様々な医療現場の学習にも役に立つものとなるだろうと考えています。
また、病院には安全管理や感染防止対策などの様々な委員会があり、それらの活動で病院の活動が支えられていると言っても過言ではありませんし、病院の外にも医療を支える大事な組織があります。多くの体験学習では医療現場は体験しますが、このような病院や医療を下支えする組織の姿もぜひ勉強してもらいたいものです。そのような学習の一環として本学のカリキュラムの中に血液センターの見学があります。これは他の大学にはないユニークな取組です。言うまでもなく血液センターは輸血が必要な患者さんのための血液の採血から管理、保管、手配までを行うセンターですが、血液は貴重な資源であるにもかかわらず、使いきれずに廃棄となるようなこともあります。この先医療現場で働く医師として、このような医療現場を支えている場、人、設備がいかに多いか、多くの人の助力を無にしないような医療を実践する心を養うためにも、ぜひ自分の目でしっかりと見ることが大切だと思います。地域医療に携わり、自分が医師として一人で赴任するということになったとき、これらの経験がきっと役に立つと思っています。


次回のインタビューは、久下 周佐(微生物学)

▲ ページTOPへ