NEWS

LATEST NEWS

【プレスリリース】急性骨髄性白血病(AML)の新たな治療法の開発に寄与 ―血液がんの再発や悪性度に影響するタンパク質の同定と機能解析―

発表のポイント

・難治性の急性骨髄性白血病(AML)患者でよく見られる受容体型チロシンキナーゼFLT3の変異体に特異的に結合する分子を同定した。

・脱ユビキチン化酵素BRCC36は、悪性度の高いFLT3-ITD変異体と特異的に相互作用し、ITD変異体の安定性とその下流シグナルの増加に寄与する。逆に、BRCC36を阻害することで、細胞増殖が抑制できた。

・FLT3変異を有するAMLの治療にはチロシンキナーゼの阻害剤を併用するが、FLT3-ITD変異は標準的な抗がん剤治療には抵抗性を示す。今回の発見は特定のユビキチンプロテアソーム系を制御することで、治療抵抗性を克服できる可能性を示している。

研究概要

 急性骨髄性白血病 (AML) でよく変異する遺伝子Fms-likeチロシンキナーゼ3 (FLT3)*1には最も良く生じる内部タンデム重複ドメイン (ITD) 変異*2とチロシンキナーゼ ドメイン (TKD)*3 変異があります。それぞれのタンパク質の安定性、細胞局在化、細胞内シグナル伝達が異なり、このことが患者の予後に影響を与えていると考えられています。このメカニズムを理解するために、薬学部 顧 建国 教授、藤村 務 教授、医学部 髙橋 伸一郎 教授らは、近接依存性標識法4を用いて、FLT3-ITD または TKDと特異的に相互作用するタンパク質を解析し、質量分析によって同定しました。
 同定した分子の中に、FLT3-ITD と特異的に相互作用する分子BRCC365が見つかりました。BRCC36は蛋白質に付加されたリジン63結合ポリユビキチン鎖を特異的に加水分解する脱ユビキチン化酵素です。脱ユビキチン化することによりユビキチン化6によるタンパク質の分解が抑えられます。siRNA法を用いてBRCC36 の発現を抑制すると、ITD の発現量、下流シグナルSTAT5 のリン酸化及び細胞増殖が減少しました。一方、野生型やTKD発現細胞ではBRCC36発現抑制の影響は認められませんでした。さらに、BRCC36 の阻害剤であるチオルチン処理により、ITD 細胞のみ細胞増殖の抑制とアポトーシスが誘導されました。チオルチンは、AMLの標準臨床薬であるキザルチニブ(FLT3チロシンキナーゼ活性を阻害剤)と相乗効果を示しました。
 さらに、BRCC36により脱ユビキチン化される部位を検討したところ、ITD変異体の重複ドメインの繋ぎ目にある 609 位のリジン残基が特異的に認識されることがわかりました。
 これらのことから、BRCC36がFLT3-ITDの特異的な調節因子であり、BRCC36に対する感受性の違いがFLT3-ITD の安定化に関連し、AML の予後(再発・難治性)に影響を与えるものと考えられます(図1)。BRCC36の働きを制御することで、悪性度の高いFLT3-ITD変異体の治療抵抗性の克服につながることが期待されます。
 この研究成果は、国際科学雑誌「Cancer Science」に2024年1月30日付けで公開されました。

 標準的なAMLの治療ではチロシンキナーゼの阻害剤が用いられておりますが、FLT3-ITD変異はERに安定的に存在し、チロシンキナーゼ阻害剤耐性遺伝子変異を獲得します。一方、BRCC36はFLT3-ITD の安定化に関連しAML の再発・難治性に影響を与えると考えられます。BRCC36の働きを阻害することで、FLT3-ITD変異体を不安定化することは新しい治療法になるのではないか、さらに、FLT3/BRCC36 の二重阻害がFLT3-ITDの治療抵抗性を克服できる可能性があると期待しています。

(用語解説)
*1 Fms-likeチロシンキナーゼ3(FLT3): 造血細胞の増殖と分化を制御する重要な細胞表面受容体チロシンキナーゼで、しばしばAMLで変異が生じる。
*2    内部タンデム重複(ITD)変異: FLT3遺伝子の一部が重複する重要な変異で、細胞の異常増殖や分化の異常を引き起こすことがある。
*3    チロシンキナーゼドメイン(TKD)変異: FLT3のチロシンキナーゼ活性を活性化する変異。
*4 近接依存性標識法:目的タンパク質の近傍(近い距離)に反応性が高いビオチン標識分子を酵素的に産生させ、近傍のタンパク質をビオチン標識させる技術。
*5    BRCC36:K63結合ポリユビキチン鎖を特異的に加水分解する酵素。DNA損傷修復・細胞シグナル伝達・細胞周期制御など種々の種に関与するなどさまざまな生命現象に関わる。
*6    ユビキチン化(修飾):タンパク質翻訳後修飾の一種で、ポリユビキチン鎖を形成することが多い。ポリユビキチン修飾は、プロテアソームによるタンパク質分解・エンドサイトーシス・DNA修復・翻訳調節・シグナル伝達などさまざまな生命現象に関わる。

論文名

タイトル:BRCC36 associates with FLT3-ITD to regulate its protein stability and intracellular signaling in acute myeloid leukemia
掲載誌:Cancer Science    
DOI:10.1111/cas.16090
ウェブサイト:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/cas.16090

著者名

Jianwei Liu1, Tomoya Isaji1, Sachiko Komatsu2, Yuhan Sun1, Xing Xu1, Tomohiko Fukuda1, Tsutomu Fujimura2, Shinichiro Takahashi3,4 and Jianguo Gu1,4
著者所属:1東北医薬大・薬・細胞制御; 2東北医薬大・薬・臨床分化; 3東北医薬大・医・臨床検査; 4責任著者

研究の詳細・お問い合わせ先

プレスリリース本文

関連する教室のホームページ

薬学部 細胞制御学教室(顧 建国 教授)
薬学部 臨床分析化学教室(藤村 務 教授)
医学部 臨床検査医学教室(髙橋 伸一郎 教授)