薬学教育センター

第21回 東北薬科大学生涯教育講演会

日時: 平成25年6月29日(土) 14:00~17:15
会場: 東北薬科大学講義棟 70周年記念講堂
テーマ: 薬剤師業務の充実と支援

講演1

「インフルエンザ感染症を考える -H7N9を含めて-」

東北薬科大学臨床感染症学教室教授 藤村 茂

講演2

「どうなる これからの医療」

東北薬科大学医療管理学教室教授 濃沼 信夫

 
参加費:無料
 
薬剤師研修センター認定: 2単位
日本病院薬剤師会生涯研修認定:1.5単位


講演会要旨

講演1 要旨

「インフルエンザ感染症を考える ‐H7N9を含めて‐」

東北薬科大学臨床感染症学教授 藤 村 茂

 

 2009年に我々人類は、メキシコに端を発したA型(H1N1)の新型インフルエンザ(H1N1pdm09) による世界的大流行を経験した。当時我が国では、水際作戦と称し空港検疫等を実施し、新型インフルエンザの国内への持ち込みを食止めようとしたが、結果的に国内でも瞬く間に感染が拡大していった。しかしながら、我が国における新型インフルエンザによる死亡者数は、他国に比し極めて少なかったのである。当時、このインフルエンザウイルスに対するワクチンが全く足りていなかったものの、死亡者数が少なかった要因の一つとして、我が国における抗インフルエンザ薬の適正使用が奏功したとの見方が強い。2009年当初は、既に効果の低下が示されていたアマンタジンを除き、抗インフルエンザ薬はオセルタミビルとザナミビルの2剤だけであった。しかしながら、厚労省の迅速な対応もあり、従来と異なる剤型の注射用ペラミビルや単回吸入剤のラニナミビルが相次いで認可され臨床使用できるようになった。このことは、患者の状態に合わせて選択できる薬剤が増えたという点で評価されている。
 
 2013年に入り、中国で鳥インフルエンザA(H7N9) ウイルスによる人への感染が報告され、世界中がその動向を注目している。このウイルスは、これまで人への感染が報告されていなかった型であることから、当然、人の抗体保有率はほとんどないと考えられている。したがって、現状では人から人への感染は確認されていないものの、2009年のような大流行の可能性も否定できないだろう。こうした状況下で、我々薬剤師は、この局面をどう理解し、今後どう対処すべきか、2009年のpandemic fluを教訓に、H7N9を含むインフルエンザ感染症について理解を深めていきたい。

講演1 要旨

「どうなる これからの医療」

東北薬科大学医療管理学教室教授 濃 沼 信 夫

 

 安倍政権の社会保障(医療)に係る目前の政策は、6月中旬に閣議決定された「骨太の方針」(経済財政諮問会議)に基づき、8月に予定される中期財政計画、来年度予算編成方針でその具体像が示される。中長期的な政策は、民主、自民、公明の3党合意に基づいて昨年11月末に設置された「社会保障制度改革国民会議」で議論されており、設置期限の8月末に向けて取り纏めの段階にある。
 
 また、金融緩和、財政出動に加え、アベノミクスの3本目の柱である成長戦略では、最先端の医療技術開発を進める日本版NIHの創設と、市販薬ネット販売の全面解禁が掲げられた。産業競争力会議や規制改革会議では、急速な技術革新が進む健康・医療分野の産業化が主要議題となり、医薬品等の輸出振興に向けた薬事制度の見直しが検討されている。
 
 社会保障制度改革国民会議は、民主党政権時代の「社会保障と税の一体改革」と同じく、福田内閣で設置された「社会保障国民会議」(31回審議)を踏襲したものといえる。すなわち、今後の基幹的な医療政策は、平成20年の社会保障国民会議最終報告に沿って展開されると考えられる。そのポイントは、「不十分・非効率なサービス提供体制」の改革である。
 
 一方、OECDは、昨年、幕末の黒船のごとく、わが国の医療の再生を提言してきた。提言の要点は、①医療サービスの効率改善と、②アクセスおよび医療の質の改善である。医療サービスの効率改善で、OECDが指摘するのは、病床数や受診数が多すぎること(人口当たりでOECD平均の各3倍、2倍)、在院日数が長すぎること(急性期医療で3倍)、検査機器の保有台数が多すぎること(CTは人口当たりで4倍)などである。
 
 アクセスの課題は、高齢者の受診は過剰で、勤労者の受診は限定的(機会逸失で重症化)であること、患者負担が過重となりつつあり、経済的理由による受療格差の課題が顕在化していることなどである。また、医療の質の課題では、入院医療でみると、例えば1病床(患者)当たり医師数は、主要8カ国の平均が0.6人であるのに対し、わが国は0.2人に満たず、手薄で安全が担保され難い危機的状況のことである。TPP加盟によっても、高額薬剤等の混合診療化(対象拡大)を含む、医療提供体制の効率化が強く求められよう。
 
 膨らみ続ける社会保障財源を、今後も持続的に確保できるかどうかは、低迷する日本経済の再建の成否にかかっており、これには低生産性・高コストという産業体質の構造改革が不可欠である。一方、医療の再生には医療の構造改革が不可避あり、その核心は①情報化の推進と、②医療資源の集約化である。5月に成立した共通番号(マイナンバー)制度は、決定的に遅れている医療のインテリジェント化を一気に進める無二のチャンスである。薬局を含む、医療施設における患者情報の共有で得られる業務改善の効果は、年3兆円と見込まれる。お薬手帳も不要となろう。
 
 医療資源の集約化には、医療の優先度を考慮した新しい医療保険制度の確立が重要であり、この考え方は1990年代以降、欧米の多くの国で導入された。こうした医療の構造改革によって、国際競争に対応するとともに、医療者の疲弊を防ぎ、国民に信頼される新しい医療を拓くことができると考えられる。

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