薬学教育センター

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第7回 東北薬科大学生涯教育講演会

日時: 平成17年11月19日(土) 14:30~17:30
会場: 東北薬科大学講義棟 701講義室
テーマ: 「がん化学療法における医師・薬剤師の連携」

講演1

東北薬科大学第一薬化学 教授 遠藤 泰之

講演2

宮城県立がんセンター 総長 桑原 正明 先生

宮城県立がんセンター 薬剤科長 百川 和子 先生

もみのき薬局 代表取締役社長 千葉 洋一 先生

パネルディスカッション

参加費:無料

薬剤師研修センター認定: 2単位


講演会要旨

講演1 要旨

「受容体構造に基づく新規抗エストロゲン薬、抗アンドロゲン薬の創製」

 東北薬科大学第一薬化学教室教授 遠藤 泰之

 

ある種の乳癌、子宮がんや前立腺がんはそれぞれ性ホルモンであるエストロゲンやアンドロゲンがリスク要因であるとともに、その増殖に密接に関連している。これらのホルモン依存性がんに対する抗がん薬として、抗エストロゲン薬、抗アンドロゲン薬が用いられている。これらの抗ホルモン薬はホルモン合成酵素阻害薬や受容体への拮抗薬などに分類されるが、我々は核内受容体であるエストロゲン受容体、アンドロゲン受容体に対して直接働き、拮抗作用を有する新しい骨格構造を有する化合物の設計、合成を行っている。

受容体のリガンド認識には適切な水素結合性官能基の存在と疎水性構造による立体的形状の適合性が重要であり、これらが満足されれば、全く骨格の異なる構造でも同じ作用を発現しうる。性ホルモンはステロイド骨格を有するが、我々は新しい球状疎水性構造単位としてホウ素クラスターであるカルボランをステロイド骨格に代わりうる素材として用い、エストロゲン受容体制御薬として、エストラジオールに優る活性を有するBE120、およびエストロゲン受容体拮抗薬:BE362を見出した。また、アンドロゲン受容体制御薬として、同様のコンセプトに基づき設計した拮抗薬:BA321、BA341を見出している。

受容体に対する拮抗物質は受容体と結合するが、受容体-リガンド複合体の構造変化が正常に機能せず、それによって作用発現を阻害する。したがって阻害の機構は複数存在する。今回紹介した化合物のいくつかは、既存の拮抗の機構と異なる作用機構を有する。これらの化合物の創製は、抗ホルモン薬による化学療法の選択肢を広げるとともに、点変異による受容体の変異による耐性にも対抗しうるものとなる。
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講演2 要旨

がん化学療法における医師・薬剤師の連携
「臨床の観点から」

 【医師】 宮城県立がんセンター総長  桑原 正明

 

最近の情報化の津波は私たちの日常的な考え方だけでなく、人類がこれまで営々と築きあげてきた文明や文化にも大きな影響を及ぼすように思えます。医療における大きな変化としては、これまでの医師のパターナリズム医療からインフォームド・コンセントを背景にした患者自らが決定する医療へ、個人プレーの医療から安全な医療を目指してのチーム医療への移行があげられます。

こうした医療環境の中で、医薬分業や医療過誤防止対策の推進により、薬剤師の役割も処方・調剤中心から医療現場への参加へと、大きく変わろうとしています。これからの薬剤師は有害事象の発生防止、不適切な薬物投与の削減、薬物治療そのものへの提言、さらには病院経営へ積極的な参加など、活動拡大が期待されています。

ところで日本は今、世界一の長生きの島ですが、国民の1/3は癌で死亡しており、がん対策は国の大きな課題です。がん治療は手術療法、抗がん剤を主体とする化学療法、放射線療法が三大療法ですが、最近は優れた抗がん剤や有力な新治療法が次々と登場し、化学療法そのものが見直される局面にあります。

一般に抗がん剤は副作用が強いので、化学療法を安全に行うことは最優先事項であり、現在、化学療法における医療安全システムの問題が真剣に検討されています。また最近の新薬が非常に高価なことも論議を呼んでおり、現今の厳しい医療経済にあって、効果-安全-費用関係を総合的に考慮した化学療法が求められています。こうした問題を踏まえて、これからの医師・薬剤師の医療連携の形を、がん医療の立場からお話したいと思います。


 【病院薬剤師】 宮城県立がんセンター薬剤部技術次長兼薬剤科長 百川 和子

 

最近のがん化学療法-特に注射薬については、単独で用いられる抗がん剤は少なく、多剤併用で使用されることが多く、また、注射薬のみではなく内服との併用療法も増えて来ている。一方、我が国においては、製薬会社による抗がん剤の適応承認は単剤使用によるものが多く、多剤併用の適応追加や新規承認は臨床試験等に時間かかり、がん化学療法に関する承認状況は欧米諸国から大きく遅れをとっている。このため厚生労働省では、抗がん剤併用療法検討委員会等を設置し、我が国の臨床現場で標準的に使用されている併用療法について調査検討し、EBMが認められた併用療法について製薬会社に承認申請を促し迅速審査により追加承認を行い、1年の期間で全国的にその実態把握のための調査を開始している。

臨床現場において薬剤師として多剤併用される抗がん剤の調剤や監査にかかわる時、各がん種別の標準治療法やガイドライン等EBMに裏づけされた各種化学療法のレジメン管理の必要性を痛感させられる。医療機関においては医師ばかりではなく、がん化学療法にかかわる看護師、薬剤師等医療従事者が各種化学療法を習熟し、患者毎に適性投与量や休薬期間の薬歴管理、副作用のモニタリングとその軽減化に、チームとしてのサポート体制の構築とともに、外来で化学療法を受ける患者については、院外処方を応需する保険薬局との連携も必要となる。今回は当院のがん化学療法の現状と薬剤部の取組み状況、課題等について紹介する。

1 当院における化学療法の現状
(1)各診療科のがん化学療法処方例
(2)がん化学療法レジメン管理
2 薬剤部における抗がん剤化学療法の取組み状況と課題
(1)入院化学療法
(2)外来化学療法
3 抗がん剤併用療法実態把握調査


 【保険薬局薬剤師】 もみのき薬局代表取締役社長兼学術部長 千葉 洋一

 

1.はじめに
医薬分業の進展により、調剤薬局で抗がん剤や麻薬系の鎮痛剤等が記載された処方箋を扱う件数が増加してきている。それに伴い、一部で過剰な情報提供や不用意な言動が治療に障害を生じさせている事例が少なくない。そこで、処方医と連携し、薬局薬剤師ががん患者の特殊性にいかに配慮して対応するかが課題である。

2.抗がん剤の特殊性
がん告知患者と非告知患者では情報提供する内容が大きく異なる。耐薬量付近で使用される事も多いため有害症状の発現率が高く、重篤な結果になる事もあり得る。また、服薬の結果も自覚症状の改善に結びつきにくく患者の納得が得られにくい場合がある。
3.薬局業務の内容
調剤薬局では得られる情報は限られているが、処方箋と患者のモニタリングによる医師の指導内容に種々の情報を重ねる事により、ある程度の状況は推測可能である。病院薬剤師よりもより患者に近い位置から見ると、生活背景を含めた患者の性格、価値観、人生観等を得やすい立場にいる。その情報を薬歴に蓄積し、これを基に服薬指導をし、薬歴にフィードバックし、更にそれを繰り返して行く。結果として正確な病名や検査データが入手できなかったとしても、患者の問題点を絞り込むことができ、服薬指導の方向性を定めることは概ね可能であると考える。

4.医師との連携
我々は情報の収集、分析を行い、問題点を明確にし、そのうえで常日頃から医師と連絡を取り合える環境を構築しておく必要がある。医師から必要な情報を受けることができれば、治療の方向性の精度が高まる。又、医師が知り得ない患者の生活背景を踏まえた性格、価値観、人生観等を最大限に活用して、それを根拠としてより具体的な対応や的確な指導・助言ができるようになる。その上で患者背景等の情報や有害事象やさらには他覚症状の発見を医師に伝える事ができる。

5.おわりに
服薬指導を行う上での基本となるべき、医師の療養の考え方、治療方針並びに処方意図を推測する際はがん患者と一般患者とでは異なり、医師と薬剤師の説明等に齟齬を生じさせる事は絶対に避けなければならない。モニタリング等により知り得た医師の治療方針等を尊重した指導・助言に努め、薬局薬剤師は薬物療法の流れの中で、自分の位置を見定めた上での服薬指導がより効果的で安全な薬物療法に寄与すると考える。

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