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【プレスリリース】持続感染ウイルスの新たな免疫回避機構の発見~シアリル化インテグリンを標的としたウイルス感染症の治療開発に期待~

【発表のポイント】

・免疫細胞のなかでも強い抗ウイルス作用をもつ形質細胞様樹状細(plasmacytoid dendritic; pDC)注1が、マウスの  脳に持続感染するタイラーウイルスにはまったく反応しませんでした。
・pDCに含まれるシアル酸注2の量が、通常型の樹状細胞(DC)と比べて少ないことがわかりました。
・タイラーウイルスが、シアル酸が修飾されたインテグリン注3と呼ばれるタンパク質を利用して細胞に結合してい  ることが明らかになりました。
・インテグリンは多くの細胞に発現していますが、タイラーウイルスはシアル酸も利用して細胞に侵入することで、  pDCの攻撃から逃れていると思われました。持続感染ウイルスの新たな免疫回避機構と考えられました。シアル酸  修飾されたインテグリンを標的とする治療法の開発が期待されます。

【研究概要】

東北医科薬科大学医学部・免疫学教室の中村晃教授、同じく本学分子生体膜研究所・機能病態分子学教室の井ノ口仁一名誉教授(現・大阪大学大学院理学研究科附属フォアフロント研究センター・特任教授)と金沢医科大学医学部・微生物講座の姫田敏樹准教授らの研究グループは、タイラー脳脊髄炎ウイルス(Theiler’s murine encephalomyelitis virus; TMEV) が、シアリル化αIドメイン含有インテグリンを受容体として利用することで、感染急性期に免疫システムを活性化するpDCの攻撃から逃れていることをみつけました。持続感染ウイルスの新たな免疫回避機構と考えられました(図1参照)。なお、この研究成果は、欧州免疫学会連合の学術雑誌European Journal of Immunology (EJI)に2023年8月11日付で公開されました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【研究背景】

ウイルスのなかには、生体に長期間にわたり潜伏(持続感染)するウイルスが存在します。例えば、帯状疱疹は、水疱瘡(みずぼうそう)を起こす水痘・帯状疱疹ウイルスが、神経細胞に持続感染しているために発症します。このようなウイルスは、共存するために様々な仕組みを持っていますが、持続感染するためには、生体に侵入した急性期に排除されないことが重要になります。タイラー脳脊髄炎ウイルスTheiler’s murine encephalomyelitis virus (TMEV) は、黄熱病ウイルスのワクチンを開発し、ノーベル生理学・医学賞を受賞したマックス・タイラー博士が、1930年代に発見したウイルスです。マウスの脳に持続感染して、ヒトの多発性硬化症に似た炎症性の脱髄疾患を起こすことから、動物モデルとして利用されています。これまで、TMEVが細胞に侵入するための受容体として、シアル酸が修飾された(シアリル化と呼びます)タンパク質を利用することが予想されていました。しかしながら、ウイルスの発見以来、どんなタンパク質が受容体なのかは不明なままでした。

【研究内容】

~下記プレスリリース本文参照~

【論文名】

英文タイトル:Chronic encephalomyelitis virus exhibits cellular tropism and evades pDCs by binding to sialylated integrins as the cell surface receptors.

(日本語名):慢性脳脊髄炎ウイルスは細胞表面受容体としてシアリル化インテグリンに結合しpDCから回避する細胞指向性を示す。

掲載紙:European Journal of Immunology

URL: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/eji.202350452

 

【著者名】

武田和也、海部知則、道籏龍之介、鬼怒川直孝、藤岡篤司、舘野彩夏、豊島かおる、狩野裕孝、稲森啓一郎、上条桂樹、姫田敏樹、大原義朗、井ノ口仁一、中村 晃

 

【用語説明】

注1:形質細胞様樹状細胞(plasmacytoid dendritic cell: pDC)は、インフルエンザウ

イルスなど感染時の急性期に、I型インターフェロンと呼ばれるサイトカイン

を大量に分泌して免疫細胞を活性化する細胞です。

注2:シアル酸は多くのタンパク質や脂質に結合する代表的な糖鎖です。細胞の様々

な機能に関わります。インフルエンザウイルスもシアル酸を利用しますが、

受容体として利用するシアル酸が結合するタンパク質が、タイラーウイルスと

は異なるため、pDCの攻撃を受けます。

注3:インテグリン:免疫細胞だけではなく殆ど全ての細胞に発現する細胞接着分子

です。細胞の遊走や血小板の凝集だけではなく、神経や臓器の成長にも関わま

す。インテグリンにもシアル酸が多数結合しており、インテグリンの機能のみ

ならず構造の維持にも関わっています。

 

プレスリリース本文

 

*本プレスリリースの図は原著論文の図を引用、改変して使用しています。

【本件に関するお問い合わせ先】

東北医科薬科大学 医学部

免疫学教室 教授 中村 晃

TEL:022-290-8850 (福室)

E-mail:aki-n@tohoku-mpu.ac.jp

(取材に関すること)

学校法人東北医科薬科大学 広報室

担当:金子(かねこ)、関根(せきね)

TEL:022-727-0357(直通)

E-mail:koho@tohoku-mpu.ac.jp