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朝日教育会議2019「東北の地域医療の今とこれから」を開催しました

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 本学が地域医療に貢献するために。———医学部設置から3年半。そして創立80周年を迎えたことを記念して、11月3日(日)仙台国際センターにおいて、朝日教育会議2019「東北の地域医療の今とこれから」が開催されました。

 

はじめに

 まず初めに高柳理事長・学長より、本学は2016年4月に国内%e2%98%85dsc_0064-237 年ぶりとなる医学部を開設し、1期生は4年生となり、昨年福室キャンパスに教育研究棟が完成したことに続き、今春には附属病院に新大学病院棟(新館)が稼働開始したことが紹介され、「超高齢社会のもとで医師の地域偏在が進むなど地域医療崩壊に直面する現在、参加された皆さんと、朝日教育会議を通じて、医療再生の為に何が必要か一緒に考えたい」と挨拶がありました。

 

第1部 基調講演

 次いで、第1部の基調講演では長野県の諏訪中央病院名誉院長の鎌田實先生に「命を支える医療とは〜健康づくり・地域包括ケアについて考える〜」と題してお話いただきました。鎌田先生は地域医療の先駆者として知られ、長年地域医療に取り組んでこられました。

講演では、都市部での医療と比較し、地域医療では総合診療医が重要であることについて触れられました。脳卒中ワースト2位だった長野県の地域住民に「倒れない手伝いを」と県内80か所の公民館をめぐり「健康づくり運動」を実践し、ついに長野県は長寿日本一になったそうです。

また、最近「名医」という言葉がメディアによってもてはやされているが、実は我々には「良医」が必要で、良医に病気を見つけてもらうことが重要であること、また「命を支える」ということは「相手の身になり、相手の気持ちや自己決定を尊重し、最期までその人らしく生きられるようにすること」という医療人としての心構えも実例を交えてお話いただきました。さらには、「東北地方に7つの医学部がある中で、これまでの東北に欠けていた、総合医を育てるということを、是非東北医科薬科大学に期待したい」とエールをいただきました。

第2部 プレゼンテーション

 続いて行われた第2部のプレゼンテーションでは、「地域医療の再生に求められる人材の育成ー本学の医学教育ー」と題して大野勲医学部副学部長がお話しました。

 新設された医学部のミッションが、「東北地方の復旧・復興の核となり、地域医療を恒久的に支える医学部」であることを紹介し、本学独自の修学資金制度について、国立大学と同程度の負担で修学でき、卒業後それぞれ宮城県あるいは東北の5県で勤務する仕組みであることが話されました。特に本学のカリキュラムは、卒業後の勤務を見据えて、2年次から同じ地域に同じメンバーで繰り返し訪れ、地域の生活と医療ニーズを理解し、モチベーションを向上させることで、地域に定着してもらうことを目指していることをお伝えしました。

第3部 パネルディスカッション

 休憩をはさんで再開された第3部は、一色清さん(朝日新聞社教育コーディネーター)がコーディネーターとなり、鎌田先生(前出)、生出泉太郎先生(宮城県薬剤師会顧問・日本薬剤師会相談役)、白澤奈緒子さん(KHB東日本放送アナウンサー)、柴田信之教授(薬学部長)、大野教授(前出)によるパネルディスカッションが行われ、白澤さんの疑問に答える形で議論が始められました。

「撮影・岸本絢」

「撮影・岸本絢」

———東北の医師不足、医療人不足や地域偏在をどう解決していくか
鎌田先生は「東北と北海道は、地域に医者がいなくなり苦労しているが、兵庫県の公立病院では、小児科医師が減っていき、ついに最後の1人になったときに、地域住民がお医者さんに対して『ありがとう』と感謝するようになった。その結果、この地域に全国から志でお医者さんが集まるようになった。医師と地域住民が一緒になって東北の医療システムを考えていく必要がある。」と述べられました。

大野教授は「医師不足の解消策に正解があれば苦労しないわけで、どの大学・行政・自治体も工夫しているが、うまくいっていない。本学は医師不足や医師の偏在解消に貢献することを使命としているが、医療人がどのように養成され、いつになったら完成し、その人たちがどのような貢献が出来るのか、今後地域住民のみなさんに十分な説明をしていく必要がある。住民の方の理解をどのように進めるかが課題である。」と述べました。

生出先生は「薬剤師の数は30万人以上いて、約18万人が薬局で勤務している。また、以前は46の薬学部があっ%e2%98%85dsc_0195たのが、今は75に増え、薬剤師が今後は余るのではないかと危惧されている。ただし、地域偏在は薬剤師も同様にあり、今後偏在を解消していく必要がある。地域に根差した薬局、処方箋なしで健康相談に行く、病気にならない為の相談に行く薬局が今後必要なのではないか。」と述べられました。

柴田教授は「東北各県から仙台に出てきた学生は、地元からの求人は多数あるが仙台あるいは東京方面に就職し、地元に帰る学生は数割である。5年次の5カ月間の実務実習は地元での「ふるさと実習」を強く推進することや、地元に残って地域に貢献したいという思いを育む仕組みを地域と大学が共同して作ること、学生がそれに共鳴するような感性も含めて教育していくことが必要ではないか。」と述べました。

———地域医療に必要なのはすべてを診られる総合医の存在
鎌田先生からは、「大学から諏訪中央病院に派遣された脳外科医はこれまで見たこともない光景として、『例えば脳外科の手術をすると、通常5~10%の患者は植物状態になることがある。どこの病院の脳外科医も最後まで面倒を見るが、結局段々足が遠のく。しかし諏訪中央病院では、脳外科医から総合医へと主治医が交代となり、リハビリが入って良くなり、在宅になり、往診に行くと、家族も本人も生き生きとしている姿をみた。』ものすごく働きやすいとも言っていた。」と事例が紹介されました。

「撮影・岸本絢」

「撮影・岸本絢」

また、「整形外科では、大腿骨頸部骨折で入院する患者は、大概高齢者で、糖尿病や高血圧や認知症をかかえているため、整形外科医は、検査をして手術に耐えられるかどうか調べているうちに4-5日と時間がかかり、術後の経過がわるくなり、寝たきりになってしまう。しかし総合医がいることで、それぞれの専門医の腕の見せ所をみせやすくなり、諏訪中央病院では24時間以内に手術をすることが出来る。」という事例も紹介されました。

さらに、「高度医療の中に5%総合医がいることで、高齢者の医療はすごく進歩する。東北の地方の医者が4-5人で専門医を全員揃える訳にはいかないところに、総合医が東北医科薬科大学から出ていくことによって、子供も診られる、糖尿病のコントロールもできるという医師が増え、東北の医療がこれから変わっていくのではないか。」と述べられました。 

 この他にも、多職種連携を教育現場および医療現場で進めていく%e2%98%85dsc_0202ことで、患者さんにとってよい医療を提供することが出来ることが議論された他、医療人に重要な人間的コミュニケーションについて話が及ぶと、鎌田先生は「病室にいる間に一度は患者さんに笑ってもらうにはどうしたら良いか、考えるように学生にも伝えている。患者さんに診察して説明して終わりではなく、『エンパワーする(力を入れてあげる)』ことが、大事と教えている。」と話されました。

 最後に、白澤さんから「東北医科薬科大学の学生さんが、どうして医師になりたいと思ったのか、今後の夢を地域住民や子供たちに是非語ってほしい。」と要望をいただいた他、鎌田先生からは「東北医科薬科大学は、今までにない形の新しい教育で、総合医を育てるシステムが出来上がっている。全国でみてもここまで出来上がっているシステムはないと思う。今日の話を聞いて安心しました。」と嬉しいお言葉もいただき、一色さんにより「人間力あふれる総合医と薬剤師が育つことで、東北の医療は良くなる」と締めくくられ、盛会裏に本シンポジウムは終了しました。

 

 医学部医学科の1期生卒業まであと2年と少し。皆さまからのご支援やご指導をいただきながら、社会の期待に応えられるよう努力し、着実にその歩みを進めて参ります。

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