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【プレスリリース】食道がんを特異的に診断できる新しい抗体を開発 ~食道がん診断精度の向上と下咽頭がん・子宮頸がんへの応用も期待~

発表のポイント

・食道扁平上皮がん1を特異的に検出する新しい抗体(G4B1抗体)を開発した
・下咽頭がん・子宮頸がんでもこの抗体による特異的ながんの検出が可能だった
・G4B1抗体により、食道扁平上皮がんの診断精度が向上することが期待される

研究概要

 がんの診断・治療に際しては、がん組織と正常な組織とを正確に区別することが極めて重要です。しかし、がんの診断は主に、顕微鏡を用いた熟練者による細胞や組織の形態的な判別に頼らざるをえず、がんと正常の中間のような性質の場合には特に、診断が難しい場合がしばしばありました。
 宮城県立がんセンター研究所がん幹細胞研究部・藤井慶太郎研究員、玉井恵一部長は、東北大学医学系研究科分子薬理学分野/抗体創薬研究分野・加藤幸成教授、病理診断学・笹野公伸教授(現:名誉教授)、東北医科薬科大学消化器内科・佐藤賢一教授らと共同で、食道がんの大部分を占める扁平上皮がんを特異的に検出できる抗体の開発に成功しました。今回の研究では、がん特異的な糖鎖修飾をもつ糖タンパク質2CD271に着目することで、がん部で発現するCD271糖タンパク質のみを検出する抗体(G4B1抗体)の開発に成功しました。この抗体は、がん以外の組織は検出しないことから、がんのみを検出できると考えられます。さらに、下咽頭がん・子宮頸がんにおいても同様のがん特異的な検出が可能でした。今回の結果から、G4B1抗体を用いた食道がんの診断精度の向上や抗体治療への応用が期待されます。
 本研究成果は、2022年4月19日Cancer Science誌(電子版)に掲載されました。

研究内容

 がんは本邦における死因の第1位となっており、2020年にがんで亡くなった方は378385人にのぼることが報告されています。がんを診断・治療する上で、患者の安全を確保するため、がん組織を正常な組織から正確に区別することは極めて重要です。しかし一般に、がんの診断は主に熟練者による細胞や組織の形態的な判別に頼っており、がん組織と正常組織の境界の場合、しばしは診断が難しい場合があります。がんだけにしか存在しないタンパクなど有効な目印があれば、診断がより簡便・正確になりますが、そのような目印タンパク質は極めて限られています。
 今回、宮城県立がんセンター研究所がん幹細胞研究部・藤井慶太郎(ふじい けいたろう)研究員、玉井恵一(たまい けいいち)部長、東北医科薬科大学消化器内科・佐藤賢一(さとう けんいち)教授、東北大学大学院医学系研究科病理診断学・笹野公伸(ささの ひろのぶ)教授(現:名誉教授)、分子薬理学分野/抗体創薬研究分野・加藤幸成(かとう ゆきなり)教授らの研究グループは、食道がんを特異的に検出する新しい抗体を開発しました。
 以前の研究グループの成果から、食道がんの大部分を占める扁平上皮がん1にはCD271と呼ばれる糖タンパク2が発現しており、CD271糖タンパク質が多く存在している扁平上皮がんではがんの悪性度が亢進することが明らかになっていました。しかし、CD271糖タンパク質は、食道の正常な扁平上皮にも存在するタンパク質であることから、CD271糖タンパク質をがんの診断・治療に応用することは困難でした。
 加藤教授らの研究グループは、以前より、がん組織と正常組織の両方に存在するタンパク質のなかには、糖タンパク質の糖鎖修飾が決定的に異なるものがあることを見いだしていました。そこで本研究では、その糖鎖修飾の違いに着目して抗体を作製した結果、がん組織に特異的な糖鎖修飾をもつCD271糖タンパク質のみを認識する新しい抗体(G4B1)の開発に成功しました。正常・上皮内腫瘍・がんを含む食道がん 計114例を調べた結果、これまで市販されていたCD271糖タンパク質に対する抗体では、がん組織・正常組織の両者でCD271糖タンパク質が検出されたのに対し、新たに開発したG4B1抗体は、がん症例のみを検出することができました(図1)。また、同じ扁平上皮がんである下咽頭がん・子宮頸がんを調べたところ、同様にがん症例のみを検出することができることが確認されました。G4B1抗体がどのようにCD271糖タンパク質に結合するか詳しく調べた結果、この抗体はCD271糖タンパク質のシアル酸・O型糖鎖による糖鎖修飾とその立体構造を認識していることが明らかになりました。 

結論:本研究により開発されたG4B1抗体により、食道扁平上皮がんの診断精度が向上することが期待されます。また、食道がん特異的な糖鎖修飾の存在は、がん特異的治療の理解・開発が一層進むことも期待されます。 

支援:本研究は、文部科学省科学研究費補助金・創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業(BINDS)等の支援を受けて行われました。

【用語説明】
注1.扁平上皮がん:主に顕微鏡での形態観察によって分類される癌種のひとつ。飲酒や喫煙など環境因子によって発がんリスクが上がることが知られており、遺伝子変異が比較的複雑であることから、治療標的を同定しづらい。

注2.糖タンパク質:多くのタンパクは細胞内で合成された後に糖鎖が結合することが知られており、糖鎖の付いたタンパクを糖タンパクと呼ぶ。糖鎖のパターンは多様性が高く、その生理活性は不明な点が多い。

1.扁平上皮がんにおけるCD271糖タンパク質の検出
新たに開発した抗CD271抗体(G4B1抗体)ではがん組織特異的なCD271糖タンパク質が正常上皮で検出されない(左上)のに対して、従来の市販されている抗CD271抗体では正常上皮でもCD271糖タンパク質を検出してしまう(右上)。このことは、従来の抗体では、扁平上皮がんの診断において、がん組織と正常組織の境界が曖昧になってしまうことを示している。一方、新たに開発した抗CD271抗体(G4B1抗体)では、がん組織と正常組織を明確に区別でき、がんの診断精度の向上が期待される。 

論文題目

English Title
Establishment of a monoclonal antibody against glycosylated CD271 specific for cancer cells in immunohistochemistry
Authors
Keitaro Fujii, Shinkichi Morita, Mai Mochizuki, Rie Shibuya-Takahashi, Haruna Fujimori, Kazunori Yamaguchi, Jiro Abe, Tomoko Yamazaki, Takayuki Imai, Kazuo Sugamura, Jun Yasuda, Kennichi Satoh, Ikuro Sato, Ryoko Saito-Koyama, Fumiyoshi Fujishima, Hironobu Sasano, Yukinari Kato, Kazuto Matsuura, Yukinori Asada, Keiichi Tamai
DOI: 10.1111/cas.15340
URL: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/cas.15340

【タイトル】がん特異的な糖鎖修飾を受けたCD271を免疫染色できる抗体の樹立
【著者名】藤井慶太郎、森田真吉、望月麻衣、高橋莉恵、藤盛春奈、山口壹範、阿部二郎、山﨑知子、今井隆之、菅村和夫、安田純、佐藤賢一、佐藤郁郎、齋藤涼子、藤島史喜、笹野公伸、加藤幸成、松浦一登、浅田行紀、玉井恵一

【研究者情報】
玉井恵一 東北大学大学院医学系研究科がん幹細胞学分野 客員教授
研究者 https://researchmap.jp/tamaikeiichi
研究室 https://www.miyagi-pho.jp/mcc/kenkyu/katsudou/kansaibou/

プレスリリース本文