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【プレスリリース】生理の痛みに魚の効果? ~産後に魚の摂取頻度が多い女性は中等度以上の月経痛を有するリスクが低い~

発表のポイント

・魚の摂取頻度と月経困難症(月経痛)1との関連を出産後5年時点で調査した結果、摂取頻度が週1回以上であると中等度以上の月経痛を有するリスクが有意に低かった。
・魚にはドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)を始め、ビタミンDやビタミンEなどの栄養素が豊富に含まれており、これらの栄養素が月経痛に予防的に働いたと推測される。
・産後の女性の食習慣において、定期的に魚を摂取することが推奨される。

研究概要

 月経痛は、その痛みにより、しばしば女性の生活の質に大きな悪影響をもたらすため、治療として一般的に痛み止めが服用されています。近年の報告で、魚を摂取すると、魚に含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)の抗炎症作用によって、炎症性の痛みの原因ともなるプロスタグランジン注2の作用を減少させる効果があるとされています。
 東北大学病院婦人科学分野 横山絵美助教、東北医科薬科大学医学部衛生学・公衆衛生学教室 目時弘仁教授、近畿大学東洋医学研究所 武田卓教授らのグループは、魚の摂取頻度と月経困難症(月経痛)との関連に着目し、産後の女性において魚の摂取頻度が週1回以上であると、中等度以上の月経痛を有するリスクが低くなる傾向があることを明らかにしました。本研究は、産後の女性において月経痛の観点から魚の摂取の重要性を明らかにした世界で初めての報告です。
 本研究成果は、2022年7月21日 にPLOS ONEに掲載されます。
 本研究は、環境省が実施しているエコチル調査の結果を用いて行われましたが、研究者の責任によって行われているもので、政府の公的見解を示したものではありません。

研究内容

 月経困難症(月経痛)は、月経が始まる12歳ごろから閉経前の45歳くらいまでの女性に一般的な婦人科疾患です。月経痛の主な原因として、生理活性物質の一つであるプロスタグランジンの過剰分泌による子宮の過剰収縮や子宮口が狭いことが挙げられます。月経痛は、その痛みにより、しばしば女性の生活の質に大きな悪影響をもたらすので、治療として一般的に痛み止めが服用されています。
 近年、魚を摂取すると炎症が抑えられたり、精神疾患の症状が改善されたりする効果が報告されています。これは、魚に含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)に抗炎症作用があり、炎症性の痛みの原因ともなるプロスタグランジンの作用を減少させるためと考えられています。
 東北大学病院婦人科学分野 横山絵美(よこやま えみ)助教、同周産母子センター 渡邉善(わたなべ ぜん)講師、東北医科薬科大学医学部衛生学・公衆衛生学教室 目時弘仁(めとき ひろひと)教授、近畿大学東洋医学研究所 武田卓(たけだ たかし)教授らのグループは、魚の摂取頻度と、中等度以上の月経痛との関連を調査しました。本研究は子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)の一環として実施され、2011年から2014年にかけて日本で行われたエコチル調査の全国データから、宮城ユニットセンターに登録された2,060人の女性を調査対象としました。最終出産から1.5年後に、魚の摂取頻度と月経痛の関連を調査しました。
 産後1.5 年時の月経痛の重症度を調査した結果、産後の女性の28.1%で中等度以上の月経痛があったことがわかりました(図1)。魚の摂取頻度が週1回未満の女性の38.0%が中等度以上の月経痛があるのに対し、魚の摂取頻度が週1回の女性では26.9%、週2-3回の女性では27.8%、週4回以上の女性では23.9%が中等度以上の月経痛がありました(図2)。また、魚の摂取頻度と中等度以上の月経痛があるリスクを解析した結果、魚の摂取頻度が週1回以上の女性は、中等度以上の月経痛を有するリスクが低いことが分かりました(図3)。この結果は、女性の月経痛と関連性の高い、子宮筋腫や子宮内膜症などの婦人科疾患の既往歴や年齢、学歴、収入など社会経済要因を考慮しても変わりませんでした。 

【結論】
 魚の摂取頻度が高いと中等度以上の月経痛が少ない傾向が見られるという結果は、魚に含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)を始め、豊富に含まれるビタミンDやビタミンEなどの栄養素が月経困難症に予防的に働いたと推測されます。本研究の結果から、産後の女性が魚を一定量摂取することにより、月経痛が軽減できる可能性が考えられます。また、魚摂取による健康効果は以前から指摘されており、本研究もそれらの報告と矛盾しません。昨今、日本人の魚離れが続いており、世界から見ると逆行している現象となっています。産後女性は、日頃の食事に魚料理を取り入れるよう心がけることで、苦しい月経痛に悩むことが少なくなると期待できます。ただし、本研究は横断的な検討であり、長期的な予防効果については未解明のため、今後さらなる調査にて検証をする予定です。
 エコチル調査では引き続き、子どもの発育や健康に影響を与える化学物質等の環境要因を明らかとすべく調査を続けていきます。調査に協力をいただいた妊婦さんと子どもさん、そのご家族の参加者に深く感謝申し上げますとともに、今後の引き続きのご協力をお願い申し上げます。

【用語説明】
注1.月経困難症(月経痛):月経期間中に月経に伴っておきる病的な状態であり、下腹部痛や腰痛など一般的に月経痛と呼ばれる症状が主症状となる。
注2.プロスタグランジン:痛みや発熱をおこす生理活性物質の一つ。プロスタグランジンが過剰分泌することにより疼痛が増強する。代表的な鎮痛剤である非ステロイド性抗炎症薬は、プロスタグランジンの合成を抑制することで鎮痛作用、解熱作用をもたらす。

 図1 産後1.5年時の月経痛の重症度

図2 産後1.5年時の魚の摂取頻度と月経痛の重症度

図3 産後1.5年時の魚の摂取頻度と中等度以上の月経痛のリスク

【論文題目】

English Title: Association of fish intake with menstrual pain: A cross-sectional study of the Japan Environment and Children’s Study
Authors: Emi Yokoyama, Takashi Takeda, Zen Watanabe, Noriyuki Iwama, Michihiro Satoh, Takahisa Murakami, Kasumi Sakurai, Naomi Shiga, Nozomi Tatsuta, Masatoshi Saito, Masahito Tachibana, Takahiro Arima, Shinichi Kuriyama, Hirohito Metoki, Nobuo Yaegashi

タイトル:「魚摂取と月経痛との関連:エコチル調査」
著者名:横山絵美、武田卓、渡邉善、岩間憲之、佐藤倫広、村上任尚、櫻井香澄、志賀尚美、龍田希、齋藤昌利、立花眞仁、有馬隆博、栗山進一、目時弘仁、八重樫伸生
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0269042

掲載誌名: PLOS ONE(電子版)
DOI:10.1371/journal.pone.0269042

研究者情報

東北大学大学院医学系研究科婦人科学分野/東北大学病院婦人科 横山 絵美 助教
研究室 http://www.ob-gy.med.tohoku.ac.jp/index.html
研究者 https://researchmap.jp/emi_yokoyama_sato

近畿大学東洋医学研究所 武田 卓 教授
研究室 https://www.med.kindai.ac.jp/toyo
研究者 https://www.kindai.ac.jp/meikan/818-takeda-takashi.html

 東北医科薬科大学医学部衛生学・公衆衛生学教室 目時 弘仁 教授
研究室 https://www.tohoku-mpu.ac.jp/medicine/lab/phhe/
研究者 https://researchmap.jp/hmetoki

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