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【プレスリリース】悪性腫瘍の特性に重要な役割を果たしているFAKによる シアル酸修飾糖鎖の増加とその仕組みの解明

【本研究成果のポイント】

・ FAKを欠失させると細胞表面のシアル酸の発現が著しく抑制され、FAKの発現を戻すと、シアル酸の発現抑制が解除される。
・ FAKによる細胞表面のシアル酸の制御機構は、FAKが細胞骨格を介してPI4キナーゼの安定性に寄与することで、ゴルジ体上のシアル酸転移酵素の複合体形成促進である。
・ ヒト腫瘍においてFAK の発現が上昇し、また悪性度と相関することが知られているが、糖鎖によるがんの悪性度の制御についての理解が深まることが期待される。
【研究概要】
東北医科薬科大学薬学部細胞制御学の顧建国教授と東海国立大学機構糖鎖生命コア研究所の古川潤一教授らの研究グループは、インテグリン β1 の重要な下流シグナル分子であるFAKによるシアル酸修飾の増加とそのメカニズムを明らかにしました。
がん化に伴い、細胞表面の糖鎖構造が変化することがよく知られています。特に、シアル酸の増加は、がん細胞の浸潤や転移の促進に深く関わることが報告されています。
本研究では、細胞増殖、浸潤などの悪性腫瘍の特性に重要な役割を果たしているFAK(focal adhesion kinase)が、糖鎖修飾の制御を介して機能しているメカニズムを解明しました(図)。

 

この研究が明らかにしたFAKとシアル酸の関係は、新たながん治療法の開発に向けた示唆を提供するものです。なお、この研究成果は米国生化学分子生物学会の科学雑誌Journal of Biological Chemistry (JBC)に
2023年7月20日付で公開されました。

【研究の背景と内容】

タンパク質や脂質などに結合して細胞表面を覆うように存在している糖鎖*1は様々な生命活動に深く関与しています。なかでも、糖鎖の末端に位置するシアル酸は、がん浸潤や転移能などの病態変化や感染・免疫作用、ES細胞やiPS細胞の分化能とも関連しているため、特に注目されています。しかし、シアル酸の発現調節機構にはまだ多くの不明な点があります。糖タンパク質に付加される糖鎖は、細胞内の糖転移酵素*2と呼ばれる酵素の働きによって作られます。ヒトには約180種類の糖転移酵素が存在し、細胞は状況に応じてこれら糖転移酵素の量や活性を調節し、糖鎖の形を変えて機能します。一方、FAK*3は細胞接着分子インテグリンのシグナルを調節し、細胞増殖、分化、アポトーシスなどにとって重要な役割を果たします。多くの固形がんにおいてFAKの発現が亢進すると報告されていますが、その機能についてはまだ完全に解明されていません。

【成果の意義】

これまで、糖鎖発現の変化は主に糖転移酵素の発現によって制御されると考えられて来ました。しかし、本研究により、糖転移酵素の発現だけでなく、インテグリン-FAKを介した糖転移酵素の複合体形成(GOLPH3-ST)も糖鎖の発現制御において重要であるという、全く新しい分子機序が示されます。さらに、がん遺伝子やFAKのような分子が、糖鎖修飾を変化させて細胞の機能制御を行うという視点から、新規のがん治療法の開発にも期待するものです。
本研究は、JSPS科研費23H02440, 19H03184, 21K06547, 22K06615, 22K19443および共同利用・共同研究拠点として文部科学大臣認定を受けた糖鎖生命科学連携ネットワーク型拠点(J-GlycoNet)における戦略的融合研究として、ヒューマングライコームプロジェクト(Human Glycome Atlas Project (HGA))を推進する共同研究として実施されました。

【原著論文】

タイトル:Focal adhesion kinase regulates the sialylation of N-glycans via the PI4KIIα-PI4P pathway
著者:Yuhan Sun,‡ Tomoya Isaji,‡ Yoshiyuki Oyama,‡ Xing Xu,‡ Jianwei Liu,‡ Hisatoshi Hanamatsu,§ Ikuko Yokota,¶ Nobuaki Miura,† Jun-ichi Furukawa,§, ¶ Tomohiko Fukuda,‡ and Jianguo Gu‡

著者所属:‡東北医科薬科大学薬学研究科; §北海道大学医学研究院;¶東海国立大学機構糖鎖生命コア研究所;†新潟大学大学院医歯学総合研究科

掲載誌:Journal of Biological Chemistry

DOI: https://doi.org/10.1016/j.jbc.2023.105051

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