NEWS
LATEST NEWS
LATEST NEWS
● 全国健康保険協会(協会けんぽ)の健診データから、降圧治療を開始した131万8,437人を対象に、高血圧管理・治療ガイドライン2025年版が推奨する降圧目標(収縮期/拡張期血圧130/80 mmHg未満)の達成割合(血圧コントロール達成割合)を都道府県別に評価しました。
● 血圧コントロール達成割合は全国平均で26.7%でした。一方、達成割合には都道府県差が認められ、最低の県(20.3%)と最高の県(30.5%)との差は10.2%でした。
● 血圧コントロール達成割合が高い都道府県ほど年齢調整後の脳血管疾患死亡率が低値でした。また、医師数や薬剤師数が多い(医師・病院薬剤師偏在指標が高い)都道府県ほど、血圧コントロール達成割合が高値でした。
● これらのことから、医療専門職の偏在改善によって血圧コントロールの地域差が縮小し、ひいては脳血管疾患死亡率の地域差縮小につながる可能性が示唆されました。
高血圧は、脳心血管疾患の最大のリスク因子であり、さらに高血圧治療が脳心血管疾患リスクを低減させることが知られていますが、高血圧治療中患者の約半数がコントロール不良であり、その背景に「治療目標に達していないにもかかわらず、医療者が治療強化を行わない」状況を意味する“臨床イナーシャ(臨床の惰性)”が関係していると考えられていました。医療費や脳血管疾患死亡率には明確な地域差が存在しており、これには高血圧診療における臨床イナーシャの地域差が影響している可能性が考えられていました。しかし、高血圧治療開始前後の患者特性を詳細に考慮したうえで、高血圧治療中の患者における血圧コントロールの地域差を詳細に検討した研究はありませんでした。
協会けんぽは、2020年度より加入者約4000万人分の匿名化された健診・レセプトデータを分析できる環境を外部有識者に提供する事業(外部有識者を活用した委託研究事業)を開始しており、本研究は「高血圧治療開始前から治療期までの血圧コントロール不良要因とその地域差の解明(研究代表者:東北医科薬科大学 目時弘仁教授)」の一環として行われました。
2015–2022年度の協会けんぽ健診データの健診問診情報から、降圧薬治療が開始されたと考えられる1,318,437名を抽出し、高血圧管理・治療ガイドライン2025が推奨する降圧目標「収縮期/拡張期血圧130/80 mmHg未満」で定義された血圧コントロール達成割合を都道府県別に分析し、地域差の実態とその医療構造的な背景要因を検討しました。
解析の結果、血圧コントロール達成割合は全国平均で26.7%であり、都道府県間に最大10.2%の地域差が確認されました。また、患者特性※で調整後の都道府県間達成割合の最大差は7.4%でした(※個人背景として調整した共変量: 性別、治療後健診時の年齢、BMI、LDL、HDL、eGFR、尿蛋白、喫煙、飲酒、糖尿病/脂質異常症治療、健診間隔、治療前/後健診月、高血圧治療ガイドライン2019改訂前後、年収、企業形態、産業区分、および治療前健診時収縮期血圧値)(図1)。上記の解析で得られた患者特性調整後の都道府県レベルの血圧コントロール達成割合を指標として生態学的分析と呼ばれるマクロな解析を行いました(図2)。その結果、血圧コントロール達成割合は、各都道府県の年齢調整後の脳血管疾患死亡率と負の関連を示すことが明らかとなりました。また、医療資源指標として、医師偏在指標、外来での24時間自由行動下血圧測定の算定回数、1日平均外来患者数、協会けんぽ各都道府県支部の保険料率、特定健診受診率、および病院病床数を説明変数とした重回帰分析の結果、血圧コントロール達成割合は医師偏在指標とのみ統計学的に有意な関連を示しました(p=0.0015)。また、医師偏在指標を病院薬剤師偏在指標に代えた場合も同様の結果が得られました。これらのことから、血圧コントロール達成割合が高い都道府県ほど、脳血管疾患死亡が低く、また、医師や薬剤師が比較的充足していると考えられました。
(図1) (図2)
論文タイトル:Regional disparities in blood pressure control after hypertension treatment initiation in Japan: a real-world data analysis
著者:Yutaro Iwabe; Michihiro Satoh*; Hiroki Nobayashi; Seiya Izumi;
Takahisa Murakami; Maya Toyama; Takahito Yagihashi; Yuya Suzuki; Tomoko Muroya;
Shingo Nakayama; Takayoshi Ohkubo; Hirohito Metoki
雑誌名:Hypertension Research
DOI:10.1038/s41440-025-02454-y
東北医科薬科大学大学院医学研究科 大学院生/
東北医科薬科大学病院臨床研究推進センター渉外戦略室 室長 岩部悠太郎
東北医科薬科大学医学部衛生学・公衆衛生学教室 講師 佐藤倫広
医学部 衛生学・公衆衛生学教室 講師 佐藤 倫広