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【プレスリリース】慢性的なストレスを緩和できるL-フコース – 脳の糖鎖発現が低下すると、うつ病の危険にさらされる –

発表のポイント

● 慢性社会的敗北ストレス(CSDS)うつ病モデルにおいて、L-フコースの補給により予防および治療効果が認められた。

● L-フコース投与は、ストレスによって低下した糖ヌクレオチドであるGDP-フコースの生合成を促進し、脳神経炎症を抑制した。

● CSDSによって誘導された結腸の炎症もL-フコースの投与により改善したことから、L-フコースの代謝が脳腸軸を介してストレス応答に関与する可能性が示された。

研究概要

 東北医科薬科大学 薬学研究科のZHENG Meng 大学院生、福田 友彦 准教授と顧 建国 教授らの研究グループは、焼津水産化学工業株式会社 機能性素材開発部の望月一輝 グループ長と相澤光輝 部長との共同研究により、炎症反応発現調節に係るL-フコースの機能開発を進めています。本研究では、人間社会で一般的に経験される社会的逆境をより忠実に反映する慢性社会的敗北ストレス(CSDS)モデル2を用い、L-フコースの経口投与がうつ様行動を軽減し、海馬における神経炎症を抑制することを示しました。さらに、興奮性シナプスの形成やシナプス可塑性など、うつ病の脳内メカニズムにおいて重要とされるAMPA受容体サブユニット3やPSD953などのシナプスタンパク質の減少を回復させました。興味深いことに、CSDSは海馬のGDP-フコース1量を低下させ、フコシル化を阻害することが明らかとなりました。これはGDP-フコースの生合成経路のFUK4やFPGT4といった酵素の発現低下と関連していました。これらのフコース代謝異常はL-フコース投与により改善されましたが、逆に、フコシル化阻害剤2FFはGDP-フコース量や関連酵素の発現を抑制し、うつ様行動と神経炎症を悪化させました。また、L-フコースは腸の炎症も軽減し、脳と腸の相関への関与が示唆されました。以上より、GDP-フコース代謝の異常がストレスによる病態形成に重要であり(図1)、L-フコース投与による代謝異常の回復が新たなうつ病の治療戦略となる可能性を示しています。
なお、この研究成果は米国の科学雑誌Frontiers in Immunology に2026年7月30日付で公開されました。本研究はJSPS科研費(23K27133、24K09817と 25K09941)の助成を受けて行われました。

(用語解説)
注1. 糖転移酵素 α1,6-フコシルトランスフェラーゼ(Fut8)・GDP-フコース・L-フコース:Fut8はヒトで約180種類存在することが知られている糖鎖合成に関与する酵素の一つ。糖供与体である糖ヌクレオチドGDP-フコースからフコースをN型糖鎖の根元にα1,6結合で付加する反応を触媒する。GDP-フコースはフコースの供与体(ドナー基質)として働く活性化糖ヌクレオチドで、できた糖鎖構造はコアフコースと呼ばれる。
L-フコースは天然に存在する六炭糖の一つで、6-デオキシ-ガラクトースとも呼ばれる。Fut8の糖供与体である GDP-フコースの合成経路のうち、サルベージ経路を活性化する。

注2. 慢性社会的敗北ストレス(CSDS):雄マウスの縄張り本能を利用したうつ病の動物モデル。攻撃的なマウスに弱い侵入マウスを毎日対面させ、侵入者マウスに敗北ストレスを与えるストレス負荷の方法。慢性社会的敗北ストレスは人の対人関係(社会性)の挫折・いじめなどをよく再現しているモデルで、社会的回避行動の増加、快感の消失などの抑うつ様行動をよりよく再現出来る。

注3. AMPA受容体サブユニットやPSD95などのシナプスタンパク質:
AMPA受容体は、神経細胞に存在する代表的な興奮性グルタミン酸受容体で、脳の高次機能に重要な役割を果たしていて、AMPA受容体の働きや発現量の異常は、うつ病などの精神疾患に関連しているとされている。
AMPA受容体GluA1-4の4種類のサブユニットがあり、主要な組み合わせはGluA1/GluA2やGluA2/GluA3
PSD-95はシナプス後部の主要な足場タンパク質で、AMPA受容体の補助サブユニット(TARP)を介してAMPA受容体をシナプス後肥厚(PSD)に固定することで、AMPA受容体のシナプス局在を安定化させる。

注4. FUK・FPGT:FUKとFPGTは、どちらもL-フコースのサルベージ経路に関与する酵素。この経路では、フコースからGDP-L-fucoseを合成し、フコシル化に必要な基質を供給する(一度分解された分子や細胞外から取り込んだ分子を、そのまま利用)。一方、デノボ経路は細胞内のグルコース代謝から生じる中間体を出発物質としてGDP-L-fucoseを合成する経路。

 

図1 慢性ストレス誘発性のうつ様行動を示すモデルの概要図

論文名

L-fucose administration ameliorates chronic social defeat stress-induced depressive like behaviors by restoring GDP-fucose biosynthetic activation and core fucosylation

掲載紙:Frontiers in Immunology,

DOI:https://doi.org/10.3389/fimmu.2026.1909378

著者名

Meng Zheng1, Tomohiko Fukuda1, 2,*, Siming Zhang1, Yue Wang1, Tsukushi Saito1, Yuhang Zhou1, Boyu Xia1, Kazuki Mochizuki3, Teruki Aizawa3, Tomoya Isaji1, 2 and Jianguo Gu1, 2,*

*責任著者
1東北医科薬科大・薬学研究科; 2東北医薬大・分生研;
3焼津水産化学工業・開発本部

研究の詳細・お問い合わせ先

プレスリリース本文

薬学部 細胞制御学教室ホームページ

https://www.tohoku-mpu.ac.jp/laboratory/drg/index.html