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【プレスリリース】神経難病・視神経脊髄炎スペクトラム障害に特徴的な 自己抗体は体の異なる部位で産生されていた 抗MOG抗体関連疾患の病態理解に貢献

研究のポイント

• 自己免疫性の神経難病である視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)注1に特徴的な自己抗体である抗アクアポリン4 抗体注2 と抗MOG 抗体注3 について、患者由来の血液と脳脊髄液における抗体価を比較し、体内における
産生部位を調べた。
• 髄液中の抗アクアポリン4 抗体は、ほとんどが血液で産生されたものが髄液中に移行してきたものだったが、髄液中の抗MOG 抗体の多くは髄腔内で産生されたものであることが示された。
• 抗MOG 抗体陽性患者の神経学的症状は、従来の抗アクアポリン4 抗体陽性患者の視神経脊髄炎とは異なる、特異的な病態であることが示唆された。

研究概要

 視神経脊髄炎スペクトラム障害は、視神経炎や脊髄炎などの神経症状を中枢神経系において不定期に繰り返す自己免疫性の神経難病です。
 東北大学大学院医学系研究科の青木正志教授、東北医科薬科大学医学部の中島一郎教授、東北大学病院総合地域医療教育支援部の赤石哲也助教らのグループは、視神経脊髄炎スペクトラム障害に特徴的な自己抗体とされる抗アクアポリン4 抗体と抗MOG 抗体が、患者体内の異なる部位で産生される可能性があることを報告しました。本研究は、抗MOG 抗体陽性の症例における神経学的症状と抗アクアポリン4 抗体陽性の症例における神経学的症状が、異なる病態機序をもつ独立した疾患群であること、また抗MOG 抗体を有する症例では血液中だけでなく髄液中における同抗体の存在も重要であることを示唆する報告です。
 このような抗体産生部位の違いが、両疾患の表現型や臨床経過にどのように関わるのか、今後の更なる解明が望まれます。
 本研究成果は、2021 年5 月12 日、米国神経学会学会誌 Neurology 誌(オンライン版)に掲載されました。

【論文題目】

Title: Difference in the Source of Anti-AQP4-IgG and Anti-MOG-IgG Antibodies in CSF in Patients with Neuromyelitis Optica Spectrum Disorder

Authors: Akaishi T, Takahashi T, Misu T, Kaneko K, Takai Y, Nishiyama S, Ogawa R, Fujimori J, Ishii T, Aoki M, Fujihara K, Nakashima I.

タイトル: 「視神経脊髄炎スペクトラム障害における、髄液中の抗アクアポリン4抗体および抗MOG抗体の異なる産生部位」

著者名: 赤石哲也、高橋利幸、三須建郎、金子仁彦、髙井良樹、西山修平、小川諒、藤盛寿一、石井正、青木正志、藤原一男、中島一郎

掲載誌:Neurology
DOI: 10.1212/WNL.0000000000012175

 

図1.血液と髄液の病理学的関係を示す模式図と、今回の研究で得られた各自己抗体価の髄液/血清比
(左)血液と脳脊髄液(髄液)は、血液脳関門(BBB)や血液髄液関門(BCSFB)など構造的・機能的バリアー構造によって隔てられています。髄液中に存在する疾患特異的な自己抗体などの免疫グロブリンは、血清からこれらのバリアー構造をこえて移行してくるものと、髄液や中枢神経系に存在するリンパ球が髄腔内で産生するものが混在していると考えられています。(右)今回測定された各抗体価の髄液/血液比は、抗MOG抗体のほうが抗アクアポリン4抗体よりも高い分布を示しました。

【用語解説】

注1.視神経脊髄炎スペクトラム障害:視神経炎や脊髄炎など中枢神経系の病巣に由来する急性の神経症候を、数か月から数年にわたり不定期に繰り返す、原因不明の再発性の神経難病です。視神経脊髄炎スペクトラム障害における神経学的予後は、主に再発時に蓄積する神経障害に大きく影響されることから、発症後はいかに再発を長期にわたり予防するかが重要と考えられます。視神経脊髄炎スペクトラム障害の症例の多くで、血液中に抗アクアポリン4抗体あるいは抗MOG抗体が検出されます。

注2.抗アクアポリン4抗体:アクアポリン4タンパクは中枢神経系だけでなく全身に分布する水チャネルタンパクで、中枢神経系では特に視神経や延髄などに多く発現しています。視神経脊髄炎の症例は、以前は多発性硬化症の亜型とみなされていましたが、2005年にメイヨークリニックと東北大学などの共同研究により同タンパクに対する自己抗体が視神経脊髄炎の患者さんの一部で認められることが示されました。現在、抗アクアポリン4抗体は疾患特異的な診断マーカーとして保険診療の範囲内で検査できます。

注3.抗MOG抗体:MOGタンパクは主に中枢神経における髄鞘の表面に分布する膜タンパクです。同タンパクに対する自己抗体が、抗アクアポリン4抗体をもたない視神経脊髄炎スペクトラム障害や孤発性視神経炎などの一部の症例で、血清あるいは髄液中に検出されることが近年分かってきました。全体的にみると抗MOG抗体陽性の症例では抗アクアポリン4抗体陽性の症例よりも神経学的な治療経過が良いと考えられていますが、少数の症例は難治性で治療経過も悪く、やはり適切な再発予防治療が必要です。現在、抗MOG抗体陽性の症例を、抗アクアポリン4抗体陽性の視神経脊髄炎スペクトラム障害とは異なる疾患として「抗MOG抗体関連疾患(MOGAD)」と呼ぶことも推奨され始めています。

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