生涯教育講演会・研修会

LECTURES

第32回 東北医科薬科大学生涯教育講演会

平成28年度生涯教育プログラムの一環として、「第32回東北医科薬科大学生涯教育講演会」を開催いたしました。
多数のご参加ありがとうございました。

日時: 平成29年7月8日(土) 午後2:00~5:15
会場: 東北医科薬科大学講義棟(仙台市青葉区小松島4-4-1)

講演1

「複数の一般検査を組み合わせて甲状腺機能異常などを予測する新しいスクリーニング法とその臨床応用」
東北医科薬科大学薬学部 医薬情報科学教室特任教授 佐藤 憲一

講演2

「医師の処方を理解し、適切な服薬指導をするために(15)
-腎臓・内分泌疾患の薬物治療の現状と処方解析-」
東北医科薬科大学医学部 内科学第三(腎臓内分泌内科)教室教授 森 建文
東北医科薬科大学薬学部 病院薬剤学教室 講師・東北医科薬科大学病院薬剤部 薄井 健介

  • 参加費 無料
  • 参加資格 特になし
  • 認定制度
    日本薬剤師研修センター認定 2単位
    日病薬病院薬学認定薬剤師制度 II-6:0.5単位, III-1:1単位

講演会要旨

講演1 要旨

「複数の一般検査を組み合わせて甲状腺機能異常などを予測する新しいスクリーニング法とその臨床応用」

東北医科薬科大学 薬学部 医薬情報科学教室 特任教授 佐藤 憲一

健診や病院初診時にはコレステロールをはじめとする多数の一般検査が行われます。
これまではほぼ、“コレステロール上昇(>基準値上限)なら脂質異常症”、のように単一の検査値の異常だけが関連疾患のマーカーとして使用されてきました。
医師が疑わない限り高コストのホルモン検査は実施されないため、甲状腺機能異常者(中毒症、低下症)の多くが見逃され、誤診されているとして世界中で問題になっていますが、日本甲状腺学会は200万に及ぶ治療が必要な機能異常症患者が存在すると推定しています。この問題解決に向けて、当教室では10年前頃から甲状腺専門医との共同研究を始めました。注目したのは、健診や病院初診時に測定済の一般検査項目の値を複数組み合わせれば、ホルモンの過不足が及ぼす影響を把握できるのではないかということでした。もしそれが可能なら、健診を受けた人ならだれにでもコストもほとんどかけずにスクリーニングを実施できて、問題解決につながります。

複数項目の組み合わせを見つけ出す事は非常に難しい問題で、古典統計では歯が立ちません。我々は、人工知能を活用しながら、専門医の臨床的知見もかみ合わせて、データ解析を行ないようやく機能異常者の把握に有用な組み合わせ(中毒症ならACCH法~ALP↑、S-Cr↓、T-Cho↓、HR↑、低下症ならLCCR法~LDH↑、S-Cr↑、T-Cho↑、RBC↓)、を見つけ出しました。この方法を用いて、2つの人間ドックで数年間にわたり延べ2万人余の受診者を対象に行ったスクリーニングにより、これまでに40名以上の機能異常者を発見して治療につなげることに成功しています。
この新しい方法は、未治療の機能異常者の発見のみならず、薬剤師の関与が期待される、“薬剤性の甲状腺機能異常者“や”服薬コンプライアンス低下による治療成績不良者“も見つけ出す事ができます。
発生頻度が低いため気づかれにくく、重症化してやっと病院にたどり着いて治療が始まる患者が多いクッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)についても、専門医との共同研究により8項目(γ-GTP↑、LDH↑、Na↑、K↓、Neut#↑、Eosi#↓、Lymp↓、Mono#↑)の組み合わせによりスクリーニングできることを見出し、実際にその方法により人間ドックでの患者発見にも成功しています。
講演では、甲状腺中毒症の予測チャートを配布して、健診結果表に記載の一般検査値から中毒症の心配がないかどうかを調べるやり方を説明いたします。

講演2 要旨

「医師の処方を理解し、適切な服薬指導をするために(15)-腎臓・内分泌疾患の薬物治療の現状と処方解析-」

東北医科薬科大学医学部 内科学第三(腎臓内分泌内科)教室教授 森 建文

腎臓・内分泌疾患共通の薬物治療として高血圧や体液調節治療がある。降圧剤にはCa拮抗薬、レニン・アンジオテンシン系抑制薬、利尿薬、交感神経系薬などがあるが、それぞれ特徴を有し、患者様の病態に応じて使用される。腎障害のある患者様にしばしばレニン・アンジオテンシン系抑制薬を用いられる。糸球体高血圧を是正し、腎保護に優れた薬剤であるが、食塩摂取の影響を受けやすい。そのため、通常食塩摂取の多い患者様が感染症などにより食欲不振になると途端に血圧が低下し、急性腎不全になることがある。
高血圧性の心不全などではしばしば利尿剤を用いるが、近年フロセミドなどのNa利尿薬の他、トルバプタンのような水利尿が使用できるようになった。心不全の体液コントロールではしばしば、臓器障害を伴うことがあったが、Na利尿と水利尿を上手に使いわけることにより、腎臓などの臓器を保護しながら体液調節することが可能になった。
腎臓・内分泌疾患以外の治療により発症する腎臓・内分泌疾患もある。腎臓・内分泌疾患は自覚症状が重篤になるまで出ないことも多く、疑って検査をしないとわからない。さらに腎機能の低下により薬剤の調節が必要な薬は多数あり、腎機能の情報が不足しているために、過量投与に至っているケースも少なくない。医療スタッフに限らず、患者様に対する病態および薬剤教育が重要であり、患者様自ら治療チームに参加するセルフケアを啓蒙する必要がある。
近年、高齢化が進み、病院への通院が難しくなる患者様が増加しているとともに、終末期を念頭においた医療を考えることが増えた。高齢腎不全患者では透析方法など治療法に苦慮する症例が少なくない。病院と連携し在宅介護・医療を取り入れることにより、高齢腎不全患者の管理が容易になるケースが増えてきた。これにも服薬管理指導が重要であり、医薬連携のコミュニケーション法のさらなる開発が望まれる。

症例1

65歳 女性
IgA腎症からの腎機能障害がある。

(検査値)
BUN 50 mg/dL, Cr 3.8 mg/dL
Na 140 mEq/L, K 4.8 mEq/L, Cl 108 mEq/L, Ca 8.5 mg/dL, P 5.3 mg/dL
TP 7.3 g/dL, Alb 3.2 g/dL, HbA1c 5.4 %, RBC 398 万/μL, Hb 11.6 mg/dL

(バイタルサイン)
血圧138/70 mmHg, 脈拍 84/min

Rp 1) アムロジピン錠 5mg 1回1錠(1日1錠)
   オルメテック錠 20mg 1回1錠(1日1錠)
   1日1回 朝食後
Rp 2) ダイアート錠 30mg 1回1錠(1日1錠)
   1日1回 朝食後
Rp 3) バイアスピリン錠 100mg 1回1錠(1日1錠)
   1日1回 朝食後
Rp 4) カリメート散(5g/包) 1回1包(1日3包)
   1日3回 朝昼夕食後
Rp 5) リオナ錠 250mg 1回1錠(1日3錠)
   1日3回 朝昼夕食直後
Rp 6) アルファカルシドールカプセル 0.5μg 1回1カプセル(1日1カプセル)
   1日1回 朝食後
Rp 7) クレメジン細粒 (2g/包) 1回1包(1日3包)
   1日3回 毎食間
注射) ネスプ注射液 60μgプラシリンジ 月に1回 皮下注

症例2

75歳 男性
2年前より糖尿病および高血圧症からの慢性腎不全で腹膜透析を行っている。
狭心症による冠動脈ステント留置の既往がある。

(検査値)
BUN 40 mg/dL, Cr 6.0 mg/dL
Na 138 mEq/L, K 4.5 mEq/L, Cl 104 mEq/L, Ca 8.7 mg/dL, P 4.8 mg/dL
TP 7.0 g/dL, Alb 3.6 g/dL, HbA1c 5.0 %, RBC 400 万/μL, Hb 10.7 mg/dL

(バイタルサイン)
血圧142/80 mmHg, 脈拍90/min

Rp 1) ニフェジピンCR錠 20mg 1回1錠(1日2錠)
   アジルバ錠 20mg 1回1錠(1日2錠)
   1日2回 朝夕食後
Rp 2) スピロノラクトン錠 25mg 1回2錠(1日2錠)
   トリクロルメチアジド錠 2mg 1回1錠(1日1錠)
   1日1回 朝食後
Rp 3) フロセミド錠 40mg 1回1-2錠(1日3錠)
   1日2回 朝食後2錠、昼食後1錠
Rp 4) サムスカ錠 15mg 1回1錠(1日1錠)
   1日1回 朝食後
Rp 5) バイアスピリン錠 100mg 1回1錠(1日1錠)
   プラビックス錠 75mg 1回1錠(1日1錠)
   1日1回 朝食後
Rp 6) トラゼンタ錠 5mg 1回1錠(1日1錠)
   1日1回 朝食後
Rp 7) カリメート散 (5g/包) 1回1包(1日3包)
   1日3回 朝昼夕食後
Rp 8) カルタン錠 500 1回2錠(1日6錠)
   ホスレノール顆粒(250 mg /包) 1回1包(1日3包)
   1日3回 朝昼夕食直後
Rp 9) フェロミア錠 50mg 1回1錠(1日1錠)
   アルファカルシドールカプセル 0.5μg 1回1カプセル(1日1カプセル)
   1日1回 朝食後
Rp 10) エルカルチンFF錠 250mg 1回1錠(1日3錠)
   1日3回 朝昼夕食後
注射) ノボラピッド注フレックスタッチ 朝4単位、昼4単位、夕4単位
   トレシーバ注フレックスタッチ 夕4単位
   ミルセラ液 150μgシリンジ 月に1回 皮下注

腹膜透析処方)
7時 ミッドペリックL135腹膜透析液 (排液バッグ付き) 1500ml
14時 ミッドペリックL135腹膜透析液 (排液バッグ付き) 1500ml
21時 ニコペリック腹膜透析液 (排液バッグ付き) 1500ml