生涯教育講演会・研修会

LECTURES

第12回 東北医科薬科大学生涯教育講演会

日時: 平成20年 7月19日(土) 14:00~17:00
会場: 東北薬科大学講義棟 701講義室

テーマ:「がん化学療法と処方解析」

講演1

「ヒト白血病細胞株NALM-6におけるシタラビン(Ara-C)耐性発現機構」
東北薬科大学薬物治療学 教授 石川 正明

講演2

「医師の処方を理解し、適切な服薬指導をするために (6)」
-抗がん剤・がん性疼痛治療薬の処方解析-
東北労災病院
腫瘍内科部長・緩和ケアチーム医師 丹田  滋 先生
処方解析 東北薬科大学臨床薬剤学 准教授 中村 仁

  • 参加費:無料
  • 認定制度
    薬剤師研修センター認定: 2単位
    日本病院薬剤師会生涯研修認定:1.5単位

講演会要旨

講演1 要旨

「ヒト白血病細胞株NALM-6におけるシタラビン(Ara-C)耐性発現機構」

東北薬科大学薬物治療学教室 石川 正明

癌化学療法は、近年著しい進歩を遂げ、外科療法、放射線療法に加えて癌治療の主力の一つになっている。しかしまだ完成の域にはほど遠く、解決されるべき多くの問題を抱えている。シタラビン(Ara-C)は、急性骨髄性白血病治療薬として繁用されている。しかしながら、患者間において効果に差が見られたり、繁用による耐性発現が報告されている。抗癌剤の殺細胞作用の発現機構および耐性発現機構を解明することは、抗癌剤による治癒効率の向上に寄与するものと思われる。

当研究室で行われた基礎的研究成果を述べる。1)白血病細胞におけるAra-Cの殺細胞作用は、癌細胞における抗酸化活性あるいは癌抑制遺伝子p53の発現により影響を受けることを明らかとした。Ara-Cの殺細胞作用は酸化的ストレスに起因するアポトーシスが関与することから、抗酸化物質を含むサプリメントあるいは薬物の併用は控えるべきであることが示唆された。2)ヒト白血病細胞株NALM-6を用いて、Ara-Cを漸増添加(step wise)によりAra-C 3, 10, 30, 300あるいは 1000nM濃度に対する耐性細胞を作製して、耐性発現機構を検討した。Ara-C耐性細胞(NALM-6/Ara-C)ではAra-Cの癌細胞内への膜輸送体nucleoside transporter (hENT-1)の発現低下に伴うAra-C 取り込みの低下、Ara-Cの不活性化酵素cytidine deaminase (CDA) 活性の増大およびAra-Cの活性化酵素 deoxy- cytidine kinase (dCK) 活性の低下が観察され、いずれもmRNAの変動と相関が認められた。耐性発現機構に関与するAra-Cの膜輸送体、不活性化酵素あるいは活性化酵素の変動は耐性の程度により異なることも明らかとなった。CDA阻害剤tetrahydro- uridine (THU)あるいはdCK誘導剤は、部分的に耐性克服することが観察され、Ara-C耐性細胞の発現機序は複合的であるが、部分的には耐性克服の可能性も示唆された。

Ara-Cの殺細胞作用と耐性発現機構の基礎的研究結果が、癌患者の治癒効率の向上に繋がることを期待しています。

講演2 要旨

「医師の処方を理解し、適切な服薬指導をするために(6)」
-抗がん剤・がん性疼痛治療薬の処方解析-

東北労災病院 腫瘍内科部長・緩和ケアチーム医師 丹田 滋

かつて「固形がん治療での抗がん剤は有害無益」と批判された時代もあったが、薬物治療の成績が近年向上してきたことは多くのがん種で認められる。その理由は、第一に治療効果の優れた新規抗がん剤が導入されたこと、第二には、抗がん剤の副作用対策(支持療法)および疼痛対策などの症状コントロールの発達により、患者のQOLを大きく損なうことなく薬物治療を継続することが可能になったことである。がん患者が標準的薬物治療を安全に継続できれば、その患者の症状緩和および延命につながる(「早期からの緩和ケア」の利点の一つ)。今回はがん患者を診療する施設で頻用される処方例(注射処方も含む)を解析していただき、その後、(釈迦に説法であるが)一部薬剤の解説を付け加えたい。

がん性疼痛治療薬についても触れる。2008年4月の診療報酬改定から、緩和ケア診療加算(いわゆる緩和ケアチーム)の要件に「緩和ケアの経験を有する薬剤師」が4番目の職種として加わった。がん患者の様々な苦痛(トータルペイン)への対処法のうち薬物療法に関しては、その専門家である薬剤師への期待がますます高まっていることの現われである。がん性疼痛の治療に関しては医療用麻薬およびアセトアミノフェン・NSAIDsが主力であるが、難治性疼痛の場合鎮痛補助薬として各種薬物が使用される。鎮痛補助薬のほとんどがいわゆる保険外使用であり、薬剤の添付文書の範囲にとどまらず薬剤師の専門的視点から他のスタッフへ提案・アドバイスしていただきたい。

本講演のご依頼をいただくまで寡聞にして「処方(箋)解析」という作業があることを存じなかった。処方箋という限られた情報と患者からの問診から病態を推定して処方内容を解析・検討されている薬剤師に敬意を表するとともに、日々発展している薬物療法について、さらに研鑽をお願いしたい。加えて私見であるが、処方箋に主な(投薬対象となっている)病名を記載できるように関係当局に働きかける必要がある。病名が告知されていない(特に悪性疾患患者の)場合や上記保険外使用などの問題もあるが、「処方箋に病名を記載すると加算される」ことを診療報酬で誘導することは、薬剤師による調剤・服薬指導がスムーズになるばかりでなく事故予防の点からも大多数の患者に益をもたらすと考える。