生涯教育講演会・研修会

LECTURES

第2回 東北医科薬科大学生涯教育講演会

日時: 平成15年5月1日(土) 13:00~16:00
会場: 東北薬科大学講義棟 701講義室

講演1

「遺伝子診断の臨床への応用」
東北薬科大学臨床薬剤学 教授 水柿 道直

講演2

「肺炎球菌感染症とその治療戦略」
東北薬科大学病態生理学 教授 大野 勲

  • 参加費:無料
  • 認定制度
    薬剤師研修センター認定: 2単位

講演会要旨

講演1 要旨

「遺伝子診断の臨床への応用」

東北薬科大学臨床薬剤学教室教授 水柿 道直

薬物療法において、投与薬物の体内動態、効果の強弱、副作用の発現率には著しい個人差がある。それらを規定している因子として、肝機能、腎機能、心機能、年齢、性別、サーカディアンリズム、さらには食事、併用薬、健康食品などの影響が考えられる。近年、それらの要因の一つとして遺伝子多型が注目されてきている。 特に核酸塩基の一塩基多型 (Single Nucleotide Polymorphism ; SNP) は、薬物感受性に対する様々なバリエーションを生み出していると考えられ、薬理遺伝学の代表的な研究対象となっている。たった一カ所の塩基配列の違いで、最高薬物血中濃度が通常に比較して数倍から数十倍にまで上昇する場合や、予期せぬ重篤な副作用が高頻度で起こる場合がある。

薬物療法時に、患者の遺伝子情報を基に、薬剤の反応性 (responderやnon-responder) やその動態 (extensive metabolizerやpoor metabolizer)、さらには副作用発現の可能性を予測できれば、より安全で効果的な個別医療(テーラーメイド医療、personalized medicine)が展開できると期待されている。その際に、臨床の現場では、正確・簡便・迅速な遺伝子診断が求められる。

演者らは、平成14年3月まで東北大学医学部附属病院薬剤部に勤務してきたが、医薬品の適正使用や患者の副作用回避に遺伝子情報を利用することを目的として、薬剤反応性に影響を及ぼすと考えられる遺伝子のSNP解析や、簡易迅速な遺伝子診断法の開発を行ってきた。また、それらの結果を臨床の現場において実際に役立たせるように心掛けている。

今回は、演者らが開発したリアルタイムPCRによる簡易遺伝子多型検出法について解説し、その臨床応用で得た結果を紹介したい。

講演2 要旨

「肺炎球菌感染症とその治療戦略」

東北薬科大学病態生理学教室教授  大野 勲

肺炎球菌は市中肺炎や細菌性髄膜炎の主要な起炎菌であり、特に小児、高齢者では肺炎球菌感染症による入院や死亡が大きな問題となっている。
細胞壁の外にある莢膜は宿主臓器に強い炎症反応を引き起こすことから、本菌の病原性に最も関与している因子であり、その抗原性から90の血清型に分類されている。化学療法の面では、当初、肺炎球菌はペニシリンを初めとする多くの薬剤(セフェム系、マクロライド系)に感受性を示していた。しかし1967年オーストラリアで臨床的には世界第一例のペニシリン耐性肺炎球菌が報告されて以来、世界的にさらに我が国でも本菌の高度耐性化(耐性率40~60%)、多剤耐性化が進んでいる。耐性菌の莢膜血清型は、海外と同様に、19型と23型が多くその他に6、9、14型などが報告されている。現時点では、耐性菌を含む肺炎球菌の治療として、経口薬としてはセフジトレン、セフカペンなどのセフェム系薬、ペネム系薬のファロペネム、注射薬としてはカルバペネム系薬が有効とされている。

一方、肺炎球菌感染に対する宿主の防御反応は、上皮細胞の線毛運動や気道分泌による上皮細胞への接着阻害・排除と、抗体(特に莢膜に対する)と補体による菌のオプソニン化とそれに引き続く好中球やマクロファージによる貪食である。貪食においては脾臓が重要な役割を担っている。従って、気道の慢性炎症(喫煙や慢性閉塞性肺疾患など)や抗体/補体の減少・欠損、好中球の量的、機能的低下をきたす諸疾患や医療行為(ステロイドホルモン、抗癌剤など)、脾摘などは、肺炎球菌感染のリスクを高めることとなる。このような易感染性宿主に対して23種の莢膜多糖体を含む肺炎球菌ワクチンの接種が認可されている。さらに、感染成立の第一段階である肺炎球菌の組織侵入において宿主の蛋白分解酵素が利用されていることが明らかになりつつあり、このような分子を標的とした、従来の抗菌剤によらない新たな治療戦略の開発も期待される。

日本薬剤師研修センターでは薬剤師の資質向上のための生涯研修指標として20項目が設定されており,その18番目に環境衛生をあげている。これからの薬剤師は調剤,処方解析,副作用,相互作用など医療に関連した事項に精通することは勿論のこと,学校環境を含む地域の環境保全に貢献することによってQOLの向上を図ることが期待されている。