生涯教育講演会・研修会

LECTURES

第25回 東北医科薬科大学生涯教育講演会

日時: 平成26年11月8日(土) 14:00~17:15
会場: 東北薬科大学講義棟 70周年記念講堂

講演1

「糖鎖生物学と臨床薬学の接点-レクチンはがん治療薬たり得るか?-」
東北薬科大学分子認識学教室・教授 細野 雅祐

講演2

「消化器術後の栄養療法の現状-経腸栄養と静脈栄養の選択-」
東北薬科大学病院低侵襲外科センター長・病院教授 柴田 近

  • 参加費:無料
  • 参加資格:特になし
  • 認定制度
    薬剤師研修センター認定: 2単位
    日本病院薬剤師会生涯研修認定:1.5単位

講演会要旨

講演1 要旨

「糖鎖生物学と臨床薬学の接点 -レクチンはがん治療薬たり得るか?-」

東北薬科大学分子認識学教室・教授 細野 雅祐

日本語で糖といえば、一般に甘いものを連想します。化学的には炭水化物とも書きますが、おもしろいことに英語ではsugar、saccharide、carbohydrate、独語でもzucker、saccharid、kohlenhydratと、単語が3つも当てられています。ひとつにはそれだけ普遍的なものだから、なのかもしれません。一説によれば、糖という漢字は「米からつくった飴(旁の唐は飴を表す文字の代用)」を表すのだそうです。生き物にとってこの上なく大切な糖はもちろんグルコースですが、我々のからだを構成している糖は他にも様々あり、それらが繋がって長短多彩な「糖鎖」とよばれる構造をつくります。さらに糖鎖は、タンパク質や脂質と結合することによって機能的な分子を形成し、細胞の表層を覆っています。複合糖質(glycoconjugate)が単なる栄養源や構造単位としてばかりでなく、細胞の分化や増殖に関するシグナルの送受信、識別、接着など、生物が生存する上で必要とされる多くの生命現象に積極的な役割を果たしていることが近年いろいろと分かってきました。

本講演では、糖鎖生物学がこれまで医療に対し成し得た貢献を、血液型や腫瘍マーカーを例として解説し、さらに今後どのようにイノベイティブな関与が期待できるのか、糖鎖不全症候群あるいは再生医療の分野における新しい知見をピックアップして紹介させていただきます。私たち分子認識学教室(旧癌研第一部)のメンバーは、糖鎖構造を認識して結合する性質をもつレクチンというタンパク質を中心に研究を行っています。後半では特に「レクチンのがん医療への応用」というテーマに対し、私たちが抱いている将来像や夢についてお話ししたいと思います。

講演2 要旨

「消化器術後の栄養療法の現状 -経腸栄養と静脈栄養の選択-」

東北薬科大学病院 低侵襲外科センター長・病院教授  柴田 近

消化器癌術後の栄養療法はこの10-15年で大きく変化した。以前は術後絶食期間を長くとって中心静脈栄養(TPN: total parenteral nutrition)を行なう考えが主流だったが、腸が使えるなら腸を使え、のスローガンと共にNST(nutrition support team)の活動が普及し、経腸栄養が術後早期から晩期まで使用されることが多くなった。とは言え、術後の栄養療法の選択で迷うことも少なからずある。本講演では、経腸栄養とTPNのあらましについて述べ、その後に術後栄養療法が問題となった症例を提示する。

経腸栄養は、TPNでは必発の腸管粘膜の萎縮を避けられる、免疫能や消化管生理機能(消化管運動,ホルモン分泌)を維持できる、廉価である、などの利点を有しており、薬品・食品を問わず多くの経腸栄養剤が販売されている。経腸栄養剤の合併症としては、悪心・嘔吐、下痢、誤嚥性肺炎、の頻度が高い。これらの頻度を減少させる目的で半固形化経腸栄養剤が発売されているが、本当に効果があるのかどうかはこれからの検討課題である。一方、末梢静脈栄養は絶食期間が2週間以下であれば施行されるが、2週間以上が予測される場合はTPNの適応と考えられる。TPNは経腸栄養が不可能な際に適応とされ、消化管分泌を刺激しない、などの利点がある。TPNの挿入時の最多の合併症は気胸で、使用中の合併症は機械的合併症と代謝性合併症に大別できる。機械的合併症で最も問題になるのはカテーテル関連血流感染であり、カテーテルの抜去を必要とすることが多い。代謝性合併症ではVitB1欠乏が重篤な代謝異常を引き起こすことがある。また、在宅でTPNを必要とする症例もあり、HPN (home parenteral nutrition)と呼ばれている。周術期栄養療法は、上述の理由で特に経腸栄養剤を用いて行なわれることが多い。術前の免疫賦活栄養、術後早期経腸栄養は、その有用性が示されるに従って盛んに行なわれるようになった。しかしながら、TPNが必要な手術症例があるのも事実で、TPNと経腸栄養の適切な選択が重要である。