生涯教育講演会・研修会
LECTURES
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平成30年度生涯教育プログラムの一環として、「第36回東北医科薬科大学生涯教育講演会」を開催しました。
日時: 2019年3月2日(土) 午後2:00~5:15
会場: 東北医科薬科大学小松島キャンパス講義棟(仙台市青葉区小松島4-4-1)
「整形外科領域感染症における抗菌化学療法を考える」
東北医科薬科大学薬学部 臨床感染症学教室 教授 藤村 茂
「医師の処方を理解し、適切な服薬指導をするために(19)-整形外科領域における感染症対策と処方解析-」
東北医科薬科大学医学部 整形外科学教室 准教授 石塚 正人
東北医科薬科大学薬学部 病院薬剤学教室 講師 岡田 浩司
「整形外科領域感染症における抗菌化学療法を考える」
東北医科薬科大学 薬学部 臨床感染症学教室 教授 藤村 茂
感染症は臓器別の各領域に起こりうる疾患であり、その治療の考え方も多様である。細菌感染症の場合、原因となる細菌は多数存在し、近年ではこれらの細菌が薬剤耐性を獲得していることも少なくない。本日のテーマである整形外科領域の感染症は、外傷に伴う市中感染と手術部位感染に大別されるが、どちらも皮膚由来の常在菌もしくは定着菌が原因となることが多い。また人工関節置換術後のいわゆるデバイス関連感染では、病院内の環境汚染菌が原因となることも知られている。こうしたケースではメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)や同表皮ブドウ球菌(MRSE)などの耐性菌が感染部位より検出されることがある。このように原因菌が同定された場合、抗菌力の差により薬剤の選択は容易であるが、一般に長期投与になることが多く、組織移行性や患者の腎機能等忍容性を考慮する必要がある。また、デバイス関連感染の場合は、細菌が産生するbiofilmも考慮しなければならない。現時点でbiofilm形成菌による感染が想定された場合、抗菌薬投与のみでは治療が困難であることが多く、最終的に再置換術を余儀なくされ、患者に負担を強いることになってしまうのである。このほか整形外科領域の感染症では、原因菌が同定されないことも珍しくない。この場合Empiricalな抗菌化学療法が漫然と行われることがあるが、本講演ではこれに関する考えも述べる予定である。
2019年にMRSA感染症治療のガイドラインが2年ぶりに改訂される予定であるが整形外科領域で使用される新薬について掲載される。最新の話題を含めAntimicrobial Stewardshipに則り、薬剤師が難治性の整形外科領域感染症に対し、どう関与していくべきか皆さんと考えていきたい。
「医師の処方を理解し、適切な服薬指導をするために(19)-整形外科領域における感染症対策と処方解析-」
東北医科薬科大学 医学部 整形外科学教室 准教授 石塚 正人
急外来や日常診療において発赤、熱感、腫脹、疼痛など炎症反応を伴う急性関節炎をみることは少なくない。鑑別疾患は多彩で診断が困難な場合もあるが、最も重篤で緊急の対応を必要とする疾患が化膿性関節炎である。種々の病原性微生物が血行性にあるいは直接関節内に侵入して発症する。主な起因菌は黄色ブドウ球菌、連鎖球菌であり最近は侵襲性肺炎球菌の報告もみられる。治療のわずかな遅れが患肢や生命を脅かすなど重篤な結果をもたらす可能性があり、不適切な治療により関節が破壊され変形性関節症や拘縮などに至り機能障害を残すことがある。早期に血液検査、関節液検査、培養検査などで診断し、抗菌薬や外科的処置による的確で強力な治療を行うことが重要である。 人工関節置換術は変形性関節症や関節リウマチなどで破壊された関節に行われる手術で、疼痛緩和、関節機能改善による生活の質の向上に有用である。日本でも手術件数は増加しているが、この手術の重篤な合併症である人工関節周囲感染(Periprosthetic Joint Infection: PJI)もまた今後増加していくと考えられる。PJIの診断は遅発性の場合などで困難な場合もあり、治療は複数回手術や長期間にわたる抗菌薬使用を要するため難渋することが多い。49歳 男性
既往歴:高血圧
現病歴:10か月前から尋常性乾癬として近医皮膚科でステロイドを処方され内服していた。7か月前から左肩痛が出現したため近医整形外科を受診し乾癬性関節炎の診断でメトトレキサート(MTX)を投与された。6か月前に左肩痛、炎症反応が改善しないため当院リウマチ科に紹介され生物学的製剤(ヒュミラ)が開始された。炎症反応は一時改善したが左肩痛は更に増強し、X線像で骨破壊が強かったため造影MRIで精査したところ、感染性関節炎が疑われたため当科に紹介、入院となった。関節液培養で黄色ブドウ球菌が検出され、関節鏡視下滑膜切除、持続灌流を行い感染が沈静化し退院となった。
退院時処方
Rp 1) | ダラシンカプセル 150mg | 1回1カプセル(1日3カプセル) |
1日3回 毎食後 | ||
Rp 2) | ケフラールカプセル 250mg | 1回1カプセル(1日3カプセル) |
1日3回 毎食後 | ||
Rp 3) | ラックビーR散 | 1回1g(1日3g) |
1日3回 毎食後 | ||
Rp 4) | アザルフィジンEN錠 500mg | 1回1錠(1日2錠) |
1日2回 朝夕食後 | ||
Rp 5) | ボルタレンSRカプセル 37.5mg | 1回1カプセル(1日2カプセル) |
1日2回 朝夕食後 | ||
Rp 6) | ムコスタ錠 100mg | 1回1錠(1日2錠) |
1日2回 朝夕食後 | ||
Rp 7) | パリエット錠 10mg | 1回1錠(1日1錠) |
1日1回 夕食後 | ||
Rp 8) | レンドルミンD錠 0.25mg | 1回1錠(1日1錠) |
1日1回 就寝前 |
57歳 女性
既往歴:約7年前 甲状腺腫、経過観察
現病歴:5年6か月前に右側、5年前に左側の人工股関節置換術を当科で行った。2日前の当科外来定期受診では人工関節に問題はみられなかった。帰宅後から左股関節痛、発熱、悪寒、戦慄あり、翌日近医で抗菌薬を処方されたが改善しなかったため救急要請し当院救急科受診となった。尿中肺炎球菌抗原陽性で感染症内科入院となり、入院後の左股関節液培養検査でB群連鎖球菌(GBS)検出され当科転科となった。保存的治療で症状改善し退院、外来で抗菌薬を継続した。
退院時処方
Rp 1) | オーグメンチン配合錠250RS | 1回1錠(1日3錠) |
1日3回 毎食後 | ||
Rp 2) | ミノサイクリン塩酸塩錠100mg | 1回1錠(1日2錠) |
1日2回 朝夕食後 | ||
Rp 3) | ミヤBM錠 | 1回1錠(1日3錠) |
1日3回 毎食後 |