生涯教育講演会・研修会

LECTURES

第38回 東北医科薬科大学生涯教育講演会

2019年度生涯教育プログラムの一環として、「第38回東北医科薬科大学生涯教育講演会」を開催しました。
多数のご参加ありがとうございました。

日時: 2019年11月2日(土) 午後2:00~5:15
会場: 東北医科薬科大学小松島キャンパス講義棟70周年記念講堂(仙台市青葉区小松島4-4-1)

メインテーマ:精神疾患の基礎と臨床

講演1

「抗うつ薬の薬効評価と最近の話題」
東北医科薬科大学薬学部 薬理学教室 准教授 中川西 修

講演2

「医師の処方を理解し、適切な服薬指導をするために(20)-双極性障害の薬物治療と処方解析-」
東北医科薬科大学医学部 精神科学教室 教授 鈴木 映二
東北医科薬科大学薬学部 病院薬剤学教室 講師・東北医科薬科大学病院薬剤部 薄井 健介

  • 参加費 無料
  • 参加資格 特になし
  • 認定制度
    日本薬剤師研修センター認定(2単位)
    日病薬病院薬学認定薬剤師制度(II-1:1単位、V-1:0.5単位)
    宮城県病院薬剤師会生涯研修認定(1.5単位)

講演会要旨

講演1 要旨

「抗うつ薬の薬効評価と最近の話題」

東北医科薬科大学 薬学部 薬理学教室 准教授 中川西 修

うつ病は、抑うつ気分又は興味や喜びの喪失などの精神症状と睡眠障害や食欲変化などの身体症状を示す疾患であり、その生涯罹患率は10%を超えるとも言われ、珍しい病気ではない。うつ病の発症するメカニズムについては、いまだ十分に明らかになっていないが、いくつかの仮説が提唱されている。代表的なものとして、1960年代に行なわれた動物実験において、ノルアドレナリンやセロトニンなどのモノアミンがシナプス間隙で増加する薬物を投与した際うつ様行動を改善したため、うつ病の成因としてこれら神経伝達物質の欠乏に注目が集まり提唱されたのが、「モノアミン仮説」である。現在も、うつ病の治療にはモノアミンを増加させる薬物が中心となっている。しかしながら、脳内の細胞外モノアミン濃度は抗うつ薬の投与数時間後には増加するのに対し、臨床における治療効果発現までには数週間のタイムラグがありこの仮説には矛盾が生じる。一方、成熟期の脳においても海馬歯状回といった特定領域に神経幹・前駆細胞が存在し神経細胞が新生されることが明らかにされている。この海馬における神経新生は、うつ病発症の危険因子とされるストレスによって抑制されるが、抗うつ薬を慢性投与することにより神経新生が促進することから、近年では「神経細胞新生仮説」が注目を浴びている。演者らは、うつ病の病態メカニズム解明や新規抗うつ薬の開発のため嗅球摘出(OBX)モデル動物を用いて検討を行なってきた。このOBXモデルは、脳内モノアミンの変化や海馬の神経細胞新生が障害される結果を得ていることから、様々な抗うつ薬の薬効薬理試験ツールとして使用されている。本講演では、既存の抗うつ薬と海馬神経新生との関わり及びOBXモデル動物を用いた抗うつ薬の創薬について述べ、さらに、近年NMDA受容体拮抗薬のケタミンが、うつ病患者及び治療抵抗性うつ病患者に対して即効性かつ持続性の抗うつ作用を示し、注目を集めているので、この薬物についても紹介する。

講演2 要旨

「医師の処方を理解し、適切な服薬指導をするために(20)-双極性障害の薬物治療と処方解析-」

東北医科薬科大学 医学部 精神科学教室 教授 鈴木 映二

双極性障害・双極症(双極症)の治療薬は、炭酸リチウムをはじめとして薬の血中濃度の有効域と中毒域が近いなど管理が困難で、ラモトリギンやカルバマゼピンのように重症薬疹を引き起こしやすいものもある。事実、双極症治療薬は、2002年にオランザピンとクエチアピンのイエローレターが、2015年にラモトリギンのブルーレターと緊急安全性情報が出される頻度がきわめて高い。一方,双極症は自殺率も高く,本人のみならず周囲に与える影響も大きい疾患であるため、病状を薬でコントロールすることは必要不可欠である。そのため、いかにリスクを抑えながら薬物療法を続けるかは、大変大きな課題である。リスクを避けるためには、不適正使用を避けること、相互作用に気をつけること、服薬アドヒアランスに注意すること、そして何より情報を患者と共有し、多職種で患者を支えることである。特に、薬に対して脆弱な人たちは注意深く見守らないといけない。多剤併用している人、女性(血中濃度が予想以上に高くなる可能性があり、有害反応の出現率および重症化する率も男性に比べて高い)、高齢者(薬のタンパク結合率が変動しやすく、精神科治療薬のように脂溶性の高い薬の全身クリアランスが低下し、腎機能をはじめ各臓器の機能が低下するなどにより有害反応が起きやすい)、身体疾患を持つ人などである。

<症例A>

20歳代後半 女性 主婦
高校生の時に生徒会の役員に落選した後約3ヶ月間うつ状態
大学卒後企業に就職するも就職直後にうつ状態となりおよそ6ヵ月休職
結婚を機に退職
X-2年9月,結婚後にうつ状態となりAクリニックでベンラファキシンなどが処方された
X年3月,症状長引くため当院転院
その間、2~3ヵ月のうつ病エピソードを繰り返していたが,1ヵ月くらい過活動になったエピソードあり。
現在はうつ状態である。

(既往歴・家族歴) なし

(症状)
*うつ状態(現在)
・抑うつ気分(後悔、自責感、将来に対する暗い見通し)
・意欲減退(夕食の支度はしている)
・自殺念慮(なんとなく生きていても仕方ない・・・)
・過眠
・過食

*躁状態(過去のエピソード)
・ネットで買い物(同じようなものをいくつも,金額は高くない)
・多弁(時々突っかかるように議論をふっかける)

現在の処方
Rp1) ラモトリギン錠 100 mg 1回1錠 1日2回 朝・夕食後
Rp2) クエチアピンフマル酸塩徐放錠 150 mg 1回1錠 1日1回 就寝前

<症例B>

40歳代 男性 会社経営
妻と長男の3人家族
大学卒業後,銀行に勤務
X-12年,うつ病と診断され約6ヵ月休職
X-10年,会社設立 設立前後はほとんど寝ないで働いていた。
その後,数回うつ状態となる。
2週間前頃より,頻回に会議を招集し,夜通し部下を連れて飲み回るようになる。
数日前から些細なことで興奮するようになり社員5人に付き添われ受診した。
同日,医療保護入院(妻の同意)となる。

(既往歴・家族歴)父親が双極性障害

(症状)
*うつ状態(過去のエピソード)
・抑うつ気分(後悔、自責感、将来に対する暗い見通し)
・意欲減退(夕食の支度はしている)
・自殺念慮(自殺企図はない)
・不眠
・食欲低下

*躁状態(現在の症状)
・気分爽快
・行為心拍(何度も会議を招集、夜は飲み歩いている)
・観念奔逸(次々計画を思いつく)
・興奮
・易刺激性

現在の処方
Rp1) 炭酸リチウム錠 200 mg 1回6錠 1日1回 就寝前
Rp2) アリピプラゾール錠 12 mg 1回2錠 1日1回 就寝前
Rp3) エスゾピクロン錠 1 mg 1回2錠 1日1回 就寝前
Rp4) ビペリデン塩酸塩錠 1 mg 1回1錠 1日2回 朝・夕食後


<症例C>

30歳代 女性 スーパー勤務
夫と長男,夫の連れ子の長女の4人家族
大学卒業後すぐに結婚し出産,6年前に離婚し,4年前に再婚
X-10年,産後うつ病と診断
X-5年,その後何度か入退院繰り返し双極性障害と診断変更
4ヶ月前から体がだるいと薬を飲みたがらなくなり自己中断
数週間前からスポーツジムに入る、子供に習いごとを始めさせるなど過活動になっていた。
数日前から「死にたい」「子供に取り返しのつかない傷を付けた」「私など何の価値もない」などと言い,手首を切ったり,頭を叩くなどの行為が止まらなくなった。
本人を説得したところ入院に同意したため同日任意入院となった。

(既往歴・家族歴)なし

(現在の症状)
・抑うつ感(自責感,後悔を伴う)
・自殺念慮
・自傷行為(衝動行為)
・不眠(早朝覚醒)
・微小妄想

入院4週間後の処方
Rp1) オランザピン錠 10 mg 1回1錠 1日1回 就寝前
Rp2) クエチアピンフマル酸塩徐放錠 150 mg 1回2錠 1日1回 就寝前
Rp3) バルプロ酸ナトリウム徐放錠 200 mg 1回2錠 1日2回 朝・夕食後

その2ヶ月後の退院時処方
Rp1) クエチアピンフマル酸塩徐放錠 150 mg 1回2錠 1日1回 就寝前


<症例D>

30歳代 男性 自営業
妻と二人暮らし
大学卒業後会社勤務を経て,6年前に起業
X-5年,うつ状態と躁状態を繰り返し双極性障害と診断
ここ2年は精神的に比較的安定,しかし入眠困難は続いた。
数ヶ月前に不眠外来を受診
珈琲を1日10杯くらい飲むことが判明、徐々に減らすように指導を受けていた。
次第に倦怠感が出現
数日前から手指振戦やまっすぐに歩けないなどの症状が出現した

(既往歴・家族歴)なし

現在の処方
Rp1) 炭酸リチウム錠 200 mg 1回3錠 1日2回 朝・夕食後
Rp2) エスゾピクロン錠 1 mg 1回2錠 1日1回 就寝前