TMPU ACTIVITIES 3

教員とともに研究に勤しむ。
医学生の可能性をより大きく広げる
キャンパスライフ

令和3年7月30日、感染症などに対する炎症応答を確立するために非常に重要な遺伝子の発見が医学を含めた自然科学全般を取り扱う学術専門誌である「iScience」オンライン版に掲載されました。正式なニュースタイトルは「炎症反応と病原細菌除去に必須の遺伝子を発見 ~独自の炎症イメージング実験による成果~」。本学医学部6年の島田昂志さん、同医学部の高井 淳助教と森口 尚教授(医化学教室)、同医学部の中村 正帆准教授(薬理学教室)の研究グループと米国ミシガン大学との共同研究による成果です。この研究グループには現役の学生である島田昂志さんが加わっており、成果にも大いに貢献しています。

  • 医学部

    森口 尚 教授 Moriguchi Takashi

    東北医科薬科大学
    医学部医化学教室 教授
    東北大学医学系研究科
    非常勤講師

  • 医学部

    高井 淳 助教 Takai Jun

    東北医科薬科大学
    医学部医化学教室 助教

  • 医学部

    島田 昂志さん Shimada Takashi

    東北医科薬科大学
    医学部医学科 6年生

Q1島田さんが研究に参加した理由は
なんでしょうか。

島田大学を卒業後は臨床医として働くことになるので、学生のうちに基礎分野にできるだけ触れて、その技術や科学的な考えかたを学べたらいいな、と思ったんです。そして、研究室ではいい意味でトライ&エラーを繰り返せるところがおもしろいな、と。いわゆるドクター、臨床医は失敗ができない。トライしたらエラーは禁物で、成功に繋げる道を構築しなければいけないけれど、基礎科学の研究においては、思い切ったチャレンジもできる点がいいな、と。

高井そのトライ&エラーと彼がいった点については結構深い理由があるんです。島田くんには実験の立ち上げから参加してもらったんですが、その実験というのが、いわゆるヒトの消化管穿孔を模したマウスの手術をするもので、私自身やったことのない実験でした。まさにトライ&エラーの繰り返しの中で、データを掴み取っていかなければならなかった実験だったんです。島田くんはその過程にもとても興味を持ってくれて、課題研究が終わった後も研究室に通ってくれました。

Q2このように学生が研究に本格的に参加する、
という事例は多いのですか。

高井島田くんの年次でいえば3人。100人中の3人かな。医学生ってすごく忙しくて、授業だけでいっぱいいっぱいになっちゃうことが多いんですよね。だけど島田くんは、試験でも優秀な成績を修めつつ、授業が終わってから研究室に通いつつ、休日には遊びつつ、ということができる稀有な学生(笑)。何事も楽しんで取り組んでいるからなのかな。

森口島田くんは、吸収する能力が高く、研究者としてのポテンシャルがすごく高い。彼が3年生の時から、高井先生が直接実験のやりかたから遺伝子学全般についてよく教えてくれて、彼の知識も技術も高まった。その土台があったから、時間の合間を見つけては研究を少しずつ進めて来て今回の発表に繋がった、ということですね。

Q3研究の内容について、
ご解説をお願いします。

森口いわゆる盲腸、虫垂炎という病気がありますよね。あれはお腹の腸のところ、虫垂に食物残渣などが溜まってそれに細菌が付いて腸に穴が開いてしまう病気なんですが、腸に穴があるとその中の糞便が内臓に散らばって腹膜炎を引き起こす。非常にありふれた病気ですが、それをマウスに起こさせて、虫垂炎のような状態を作り出す実験を行いました。その際、我々が炎症反応に重要な役割を担っているのではないか、と着目していた遺伝子があり、マウスにはその遺伝子の機能を弱くした個体を使用したんです。すると虫垂炎は悪化し、我々の予測が正しかったことが分かった。端的にいえば、「病原体から身体を守る免疫の仕組みの一端を明らかにした」ということですね。病原菌に対する免疫がうまく働かず、いろんな感染症にかかってしまう人がいて、これまでなかなか有効な治療法が見いだせなかった。そうした局面に対して、新しい手法で病気の原因を探って、治療法を開発していくというのが我々の使命です。大学としても、臨床医を育成し輩出していくということに留まらない社会的、医学的な貢献方法を開拓していく上で、必須なのが研究という分野。10年後、20年後の医学の進歩に寄与するような研究活動をやっていくことが大切なんです。

高井他大学と比べても、研究のスパンとしては短い方だったと思います。期間はそんなに長くないけれど、密度、濃さが高いというか。研究を始めたのは福室キャンパスができてからなので、2018年から3年ほどとマウスを使った研究としては比較的早いスピードで論文までに漕ぎつけていると思います。

森口本学は新しい大学ですが、研究の環境を整えてくださってるし、設備も教育研究棟の7階に集中して最新式の機械を揃えています。他学と比べると大学の教員数、研究者数もさほど多くないものですから、いわゆる“順番待ち”の時間が短いんです。アドバンテージが高く、研究を早く進めるアクセルになっている。小さいながらも恵まれた環境で、競争相手にも負けずに発表へと結びついている。

島田そうですね。思い立った時にすぐ実験に取り組めたり、そのための最新機器が揃っている環境は福室キャンパスならではなんでしょうね。そして、研究によって本来の学業や休みが圧迫されていると感じたこともないです。僕のスケジュールについては、先生方もとても気を遣ってくれて、試験勉強やプライベートな遊びにも十分時間をとれています。また、実験の主軸となった虫垂炎は、将来、自分が医師として働く上で必ず向き合う病気。研修医になると初めて執刀する手術が虫垂炎、ということもよく聞きますし。そういう意味でも、マウスではあるけれど触れられたのはいい経験だったな、と思います。

高井虫垂炎という病気がどういった病気か、今回の研究を通して深く理解できたと思います。研究のための研究に留まらず、彼が将来、すぐに取り組むであろう日常の診療にも役立つ研究だったと思います。

Q4将来の進路について、
今はどう考えていらっしゃいますか。

島田僕は「東北地域医療支援修学資金」という制度を利用して学んでいるので、卒後、研修医としての期間が終わったら10年間は宮城県内で医師として働くことが決まっています。もちろん、それが自分の希望でもあるのですが、その先を考えるなら、臨床医として一歩先に行くのもいいだろうし、研究に戻るのもおもしろそうだと思っています。10年の中で、じっくり考えていきたいですね。

森口今、本学は大学院を設置すべくものすごく努力をしている真っ最中です。そうすると、島田くんのような臨床医を第一に目指している方たちにも更なる可能性が開けます。一般的に大学院には社会人枠がありますから、勤務医と院生の両立が可能なんです。

高井本学では、「地域医療に貢献する総合診療医を育成する」というテーマが大きく掲げられているので、高校生の皆さんも東北医科薬科大学イコール卒業後は地域の病院勤務というイメージがあると思うんですが、こうしたサイエンティフィックな、知的好奇心を大いに発揮できる場もあるということを知ってほしいですね。

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