OB & OG
INTERVIEW 5

Miura Erika

薬学科卒業

三浦えりか さん Miura Erika

漫画家

「処方箋上のアリア」
三浦えりかさんインタビュー

今回は、東北医科薬科大学の卒業生であり、薬剤師から漫画家へという異例の転身をとげ、薬剤師としての確かな経験を作家としての作品作りに活かしている三浦えりかさんのインタビューをお贈りいたします。

【処方箋上のアリア】

外科医や救急救命士、看護師から町のお医者さんまで、幅広い医療従事者をテーマとした医療ドラマや漫画によって、私たちは遠い存在に感じていた医療の世界を身近に感じることができてきました。近年ではさらに、麻酔科医や産科医、放射線技師といった専門分野で活躍する医療従事者を主人公とする作品が注目を集めています。「月刊!スピリッツ」で好評連載中の「処方箋上のアリア」は、口は超悪いが、知識豊富で洞察力も優れたキレ者の薬局長・麻生葛と天然ボケボケの新米薬剤師・浜菱愛莉と共に薬局を訪れるさまざまな人々の人間模様を描き出すヒューマン・ドラマ。どの町にもあるごく身近な調剤薬局を舞台に、ひとつ間違えば重篤な事態を引き起こす薬の怖さや適切な扱い方の重要性を、時にシリアスに、時にユーモアたっぷりに描き出しています。そのリアルで詳細な描写、緻密なプロットは、作者である三浦えりかさんの経験に基づくもの。

Q1薬剤師になろうと思ったきっかけは何ですか?

小さいころ身体が弱かったので、お医者さんや病院がとても身近だったんですね。それで、医療に関わる仕事をしたい、という希望はずっとありました。高校生になった時に有機化学の授業がとても面白くて、そのうち“薬がなぜ身体に効くのか”とか、薬という物質そのものに興味が出て来て。そこから患者さんにアプローチして行けたらいいな、と、薬剤師を目指すことにしたんです。

Q2 東北医科薬科大学に進学を決めた理由は何ですか?

東北医科薬科大学は、国家試験の合格率も高く歴史ある学校。自分の故郷である東北で進学したかったので、ここしかない!とほぼ一択でした。

実際に入学してみたら、難しい専門分野の勉強でつまづきそうになった時も、先生方がしっかりサポートしてくれて、無事薬剤師になることができました。

Q3 その頃からも漫画や作品作りも手がけていらっしゃったんですか。

こどもの頃から漫画家にはすごく憧れてて、いつかなりたいとは思ってたんですけど、本当にただ思ってるだけで。ノートに鉛筆で落書きしたり、たまに四コマ漫画を描くぐらいでした。本格的に描き始めたのは病院薬剤師として働き始めてからです。

Q4 当時は、ご職業である薬剤師とはまったく関連性のない作品を描いてらっしゃいましたね。

はい。デビューから5年くらいはずっと少女漫画のフィールドで描いていました。薬剤師は自分にとってごく日常のことすぎて、漫画にしようと思ったことが一度もなかったんです。でも、恋愛がテーマじゃないものを描きたいな、と思って青年漫画誌に来た時に、担当編集の方が“薬剤師、おもしろそうじゃん”って言ってくれて。それで初めて“ああ、薬剤師のお仕事って漫画のテーマになるんだ”って気づかせてもらったんです。それで初めて、描くことにしました。

Q5 薬剤師という仕事をテーマにした新ジャンルの作品。描く際に、気をつけていることはありますか?

薬剤師としてはあたりまえだと思っていた薬の特性や共通性が、一般的にはほとんど知られていなかったりします。それがストーリーの起点や転換点、おもしろさの源になるわけですが、うっかり専門用語を普通にネームに入れすぎて担当さんから“これじゃ分からないよ”と指摘されたりもしました。最近ではだいぶ改善されたと自分では思ってますが(笑)。そして、自分も患者として入院したり手術を受けたりしたことがあるので、その時に自分が感じた気持ちを忘れずにいたいです。医療従事者と患者、両方の視点で、なるべく偏りなく描いていけたらいいな、と思っています。

Q6 物語の中で起こる事件はどれも、誰にでもどこででも起こり得るものですね。

お薬が皆さんにとってとても身近な存在なんだよ、ということは伝えたいので、ストーリーは誰にでも起こり得ることを描いています。例えばコーヒーやお茶、ドリンク類に入っているカフェインも、摂り過ぎての死亡例があるんです。風邪薬も、ノリで飲んじゃってるみたいな方もいて、それが“危ないな”とずっと思っていたので、そうしたごく身近なものや小さなきっかけで起きてしまっている事故や事件を描くことで、少しでもそうした不幸な出来事が減るきっかけになれば、と思って描いていました。最近ではそれに加えて、 “みんながもうちょっと生きやすくなればいいな”と思うようになってきて。これを知っていればちょっと生活にプラスになるよ、楽になるよ、っていうことが描けたらいいな、って。病気でなくても薬剤師さんに気軽に相談に行っていいし、薬剤師とは何者なのかという事が意外に知られていなかったと連載を始めて気付いたので、引き続き描いていきたいと思っています。

Q7 現職の薬剤師の方や、薬学を学ぶ生徒さんからの反響も大きいと聞いています。

作品の中には、“学生の時には分からなかったけど、大学で学んだことが薬剤師として働く上でこんなに必要だったんだ”というような私自身の気づきみたいなものも入っています。実際、薬科大の学生さんから “代謝酵素は教科書で見てもピンとこなかったけれど、現場ではこうやって出て来るんですね。初めて知りました” ってお手紙を戴きました。自分が臨床の現場で学んだことや、国家試験で出そうなワードとかを作品中に入れたりして、学生さんたちに“今やってる勉強や実習、あとですごく役に立つからね”ってことをちょっと採り入れたり。自分自身、もう一度学生に戻って実習をやり直したいな、って思うこともあるくらいです。

Q8 薬剤師を目指す方々にメッセージをお願いします。

やっぱり、楽しかったことも大変だったことも実習がすごく印象に残っていて。薬用植物を食べてみたり、物質を合成したり取り出したり。当時、意味もよく分からずにやっていたことがほとんどなので、それをちゃんと理解してやれてたらもっと身になったなあ、と思っています。だから、学生さんたちには、この実験の目的は何なのか、という目的意識をもって取り組んでほしいな、と思います。間違いなく、今しかできない体験だから。そして、今ある周りの縁を大切にしてほしい、ということ。社会に出て薬学業界で働くならたくさんの同窓生に出会うはず。学生時代に築いた信頼関係が、きっと将来の皆さんを助けてくれると思います。

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